
Embedded Distanceとは、近すぎず遠すぎず議論の内側に入る距離
外部の専門家との打ち合わせは、月に一度、来客用の会議室で開かれます。毎回よく準備された資料が届き、指摘はどれも鋭い。ただ、その一か月のあいだに、社内では毎週の定例がすでに四回開かれています。方針の細かな修正も、担当の入れ替えも、予算の組み替えも、そこで決まりました。専門家が知るのは、決まったあとの結果だけです。提案が正しいのに半歩ずれて聞こえるのは、その人の力ではなく、座っている場所が遠いからです。
私たちGreatRIVERは、外から関わる人と組織とのあいだの、この距離を問題にしています。近すぎれば社内と同じ見方になり、問いが出なくなる。遠すぎれば文脈と制約が見えず、提案が実行に届かない。そのあいだにあって、外の視点を保ったまま議論の内側に入っている距離を、私たちは Embedded Distance と呼んでいます。距離は気持ちの近さでも、オフィスまでの道のりでもなく、どの場にどれだけ居合わせているかで決まります。
Embedded Distanceとは、外から異質な知と経験を持ち込みながら、日々の会議・議論・意思決定に継続して加わることで保たれる、組織との近すぎず遠すぎない距離のことです(GreatRIVER編集部)。
距離は、居合わせる場と頻度と持ち込むもので決まる
Embedded は「埋め込まれた」という意味です。外の人が組織に埋め込まれているといっても、社員になるわけではありません。社内の評価や昇進の外にいて、別の業界や専門の現場にも軸足を置いたまま、議論の場には内側の一人として座っている。外にいる理由と、内にいる理由を両方持っている状態です。
この距離を決めるものを、私たちは三つに分けて見ています。まず、どの場に居合わせるか。成果物の確認にだけ呼ばれるのか、方針を決める会議にも同席するのか。次に、その頻度と続く長さです。週に一度でも同じ定例に出つづけると、前回からの変化が見え、誰が何を気にしているかが分かってきます。そして、持ち込むものです。社内にない知と経験を持ち込まないなら、どれほど近くにいても、外から来た意味は薄れます。
なぜいま、外の人との距離を設計する必要があるのか
外部の専門人材を迎える機会は、副業や業務委託の広がりとともに増えました。ところが、どこまで内側に入ってもらうかは、契約の段階であまり話されません。決まるのは期間、稼働、成果物、費用です。距離は、その結果として何となく決まっていきます。
そこに、頼みたいことの変化が重なっています。外の人に求めるものが「何をつくるか」から「そもそも何を解くのか」へ移るほど、距離の影響は大きくなります。問い直しは、遠くからでは的を外し、近すぎると出てこなくなるからです。
近すぎる距離と、遠すぎる距離にはそれぞれの役目がある

近すぎる距離は、社員や内製のチームが本来いる場所です。文脈と制約を知り尽くしているので、決めたことを正確に動かせる。その代わり、長くいるほど、使う言葉も判断の軸もそろっていき、疑わずに済ませる前提が増えていきます。この構造は内の限界として別に整理しています。
遠すぎる距離は、外部のコンサルティングや外注が立つ場所です。しがらみがないぶん、鋭い視点を持ち込めます。ただ、社内の文脈と制約を知らないまま、意思決定にも加われないので、提案は「正しいけれど実行できない」ものになりやすい。こちらは外の限界として整理しました。
どちらの距離にも、合った仕事があります。決めたことを正確に動かすなら近い距離が、範囲の決まった仕事を仕上げてもらうなら遠い距離が向いています。Embedded Distance が効くのは、何を解くべきかから立て直し、それを実行まで運びたいときです。
よくある誤解:距離は、出社の日数や熱意では縮まらない
常駐してもらえば近くなる、と考えられがちです。けれど毎日同じフロアにいても、方針を決める会議に呼ばれていなければ、距離は遠いままです。反対に、リモートが中心でも、定例と意思決定の場に名前で呼ばれて加わっていれば、議論の内側にいられます。
熱意とも違います。熱心な人ほど組織の期待に応えようとして、内側へ寄っていきます。それは裏切りではなく、人が場所に順応する自然な動きです。だから距離は、一度決めれば保たれるものではなく、放っておけば近い側へ寄っていくものだと私たちは考えています。その場所に立つ人がどんな構えで寄りすぎを防ぐのかは、なじむ異物の定義で書きました。
関わった期間の長さも、そのまま距離を表しません。長く関わるほど深い文脈をつかめる一方で、内側に寄りすぎる危うさも増えます。
なお、半内部人材は組織の中での位置と役割を表す言葉で、Embedded Distance はその位置を成り立たせている距離を表す言葉です。
距離がずれていないかを、出てくる問いで確かめる
距離は目に見えないので、遠すぎるとき、近すぎるときに表れるサインで確かめます。

いちばん分かりやすいのは、出てくる問いの種類です。遠すぎる人の問いは、社内の人ならすでに答えを知っている問いになりがちです。近すぎる人からは、問いそのものが出なくなります。Embedded Distance にいる人の問いは、社内の事情を踏まえたうえで、その事情自体を問い直します。予算の締め方を知ったうえで、なぜこの時期に締めるのかを尋ねる、という形です。
遠すぎるサインが出ているなら、会う回数を増やす前に、どの判断に同席してもらうかを決め直します。近すぎるサインが出ているなら、外の現場に戻る時間をつくるか、別の見方を持つ人を加えます。どちらも本人の努力の問題ではなく、置き方の問題として扱うほうが早く直ります。
GreatRIVERの実践:距離を、役割と週の稼働で組み立てる
私たちGreatRIVERは、この距離こそが自分たちの価値の源泉だと考えています。関わり方の基本は、週1〜2日を中心に、数か月にわたって日々の会議・議論・意思決定に継続して加わることです。働き方はリモートが中心で、出社は柔軟にご相談いただけます。距離を決めるのは場所より、どの会議に加わるかだからです。
最初に描くのは、役割です。成果から逆算して、組織やプロジェクトに必要な役割を見極め、それに合う人を選びます。同席する場として私たちが重く見ているのは、意思決定の場です。決めるための材料をそろえ、決める瞬間に居合わせる。定例に出ていても、決める会議だけが別に開かれているなら、距離はまだ遠い側にあります。入ったあとは、毎月のフォローアップミーティングで人材のパフォーマンスを企業と共有し、組織とプロジェクトの状況に応じて人材を組み替えます。
正直に書けば、週に何日あれば深く入り込めるのか、逆にどこまで少ないと組織の一員として見られなくなるのかは、私たち自身もいまだ検証を続けています。だから日数だけで決めず、居合わせる場と持ち込むものを合わせて見ています。
まとめ:距離は、決めて、保ちつづけるもの
Embedded Distance とは、外から異質な知と経験を持ち込みながら、日々の会議と意思決定に加わりつづけることで保たれる距離です。近すぎれば問いが止まり、遠すぎれば提案が実行に届かない。その距離は出社の日数や熱意ではなく、居合わせる場、続く頻度、持ち込むもので決まります。
そして距離は、放っておくと近い側に寄っていきます。決めた距離を保つところまでが、外の人を迎える設計です。
月に一度の打ち合わせの議題を見直すとき、その人がまだ一度も同席していない会議の名前を書き出してみる。いちばん上に来た会議が、距離を詰めるべき場所です。
執筆:杉山 諒(株式会社アマナ/プロジェクトデザイナー・GreatRIVER主宰)
企業のブランディングや新規事業開発、人材育成など幅広いプロジェクトに参画し、プランニング・ファシリテーションを中心に企画・設計に従事。クリエイティブ人材育成プログラムamana Creative Camp、創造性人材循環事業GreatRIVERを主宰。認知科学コーチ。
GreatRIVERは、プロジェクトデザイナーをはじめとする創造性人材がチームで参画し、構想と推進の両面から企業のプロジェクトに内側から伴走するサービスです。まずは停滞しているプロジェクトの見立てからで構いません。
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