
大企業病が起きるのは、規模ではなく外の問いが入らなくなるから
創業から十年ほどで、社員が百人を少し超えた会社です。稟議の段数は少なく、社長にはいつでも会えます。それでも最近、会議で「うちも大企業病になってきた」という声が出るようになりました。新しい案は、決まって「前にも似たことをやった」で終わる。誰かが止めているわけではありません。前例と照らし合わせるうちに、案のほうが自然に消えていくのです。
大企業病という言葉は、意思決定の遅さや縦割り、前例主義を指して広く使われます。名前のとおり、組織が大きくなったことの副作用として語られることの多い言葉です。私たちGreatRIVERは、これを規模の病ではなく、外からの問いが入らなくなった状態として定義し直しています。
一般に言われる大企業病と、私たちの定義
一般に大企業病と呼ばれるのは、組織が大きくなるにつれて現れる、いくつかの症状のまとまりです。決裁に時間がかかる。部署どうしが互いの領域に踏み込まない。前例のないことが通りにくい。責任の所在があいまいになり、失敗を避ける判断が増える。どれも、多くの職場で思い当たるものでしょう。
大企業病とは、組織の大きさにかかわらず、社内の論理を背負わない立場からの問いが意思決定の場に入らなくなり、前例の延長でしか仕事が生まれなくなった組織の状態のことです(GreatRIVER編集部)。
私たちが注目するのは、これらの症状の根にあるものです。決裁が遅いのも、前例が重いのも、新しい問いが判断の場に届かなくなった結果として起きている、と見ています。組織が大きくても、外の問いが入りつづけていれば、この状態にはなりません。小さくても、同じ顔ぶれが同じ前提で決めつづけていれば、同じ症状が出ます。
この見方には、もう一つの意味があります。大企業病を規模のせいにすると、大きな組織にいる人は打つ手がないと感じ、小さな組織にいる人は自分たちには関係ないと感じます。どちらも、問いが止まっている場所から目をそらすことになります。問いの入り方で見れば、どの大きさの組織でも、次の会議から確かめられます。

ここで言う外の問いは、社外の人の意見だけを指していません。社内の論理を背負っていない立場から立てられた問いのことです。社外の専門家のこともあれば、他業界から来た中途入社の人の違和感、顧客がふと漏らした言葉、隣の部署からの素朴な疑問のこともあります。
大企業病は、成功のあとに進む
大企業病は、うまくいかなかった組織より、うまくいった組織に起きやすいものです。

ある事業が成功すると、その進め方が型になります。型は、誰が担当しても同じ品質を出せるようにするための、大切な資産です。その型を守るために、確認の手続きと承認の段が少しずつ増えていく。手続きが増えると、新しい問いは、まず「前例はあるか」「どの部署の担当か」で受け止められるようになります。前例がなく担当も決まらない問いは、悪意なく保留にされ、やがて誰も立てなくなる。こうして、新しい仕事が生まれない状態ができあがります。
型そのものが悪いのではありません。困るのは、型を見直す問いが、型の外からしか立ちにくいことです。型の中で育った人にとって、その型はもう前提になっています。前提を疑う問いは、その前提を共有していない人から来ることが多いのです。
どの段階にも、怠けている人はいません。手続きは正しく、保留にも理由があります。だから私たちは、大企業病を誰かの責任として扱わず、成功が残した構造として扱います。社員だからこそ本質的な問いが止まる構造は、内の限界として別に定義しています。大企業病は、その限界が組織全体の状態として表に出たものだと言えます。
規模を小さくしても治らない理由
大企業病への処方として、組織を小さく分ける、階層を減らす、決裁を速くする、といった手がよく選ばれます。どれも、手続きの重さにはよく効きます。
ただ、外の問いが入らないことには、直接は効きません。分社しても、新しい会社の会議に座るのが同じ顔ぶれなら、前提も一緒に運ばれます。階層を減らしても、残った人の言葉が似ていれば、問いは増えません。決裁が速くなっても、前例の延長にある案が速く通るようになるだけかもしれません。新しい事業のために別の組織を立ち上げても、評価の物差しが元の組織と同じなら、やがて同じ問いしか立たなくなります。
反対に、規模が大きいままで開いている組織もあります。縦の組織を残したまま、質の違う人のつながりを重ねる横の網は、規模を変えずに問いの入口を増やす考え方の一つです。組織の大きさを変える手と、問いの入口を増やす手は、別のものとして組み合わせられます。
外の問いが、どこで止まっているかを探す
大企業病かどうかを、人数や決裁の速さで測る必要はありません。外の問いがどこで止まっているかを探せば、状態が見えてきます。
中途で入社した人が、最初の数か月で口にした違和感は、一年後、何になっているか。消えているなら、問いは入口で止まっています。
新しい提案に対して最初に返ってくる質問は、何か。「前例はあるか」「どこの担当か」が先に来るなら、問いは手続きで止まっています。
顧客の言葉は、意思決定の資料に、加工されずに載っているか。要約を重ねるうちに角が取れているなら、問いは途中で丸められています。
この一年の重点施策のうち、社内の論理の外から始まったものはいくつあるか。一つもなければ、組織は前例の延長だけで動いています。
GreatRIVERが見ているのは、規模でも速さでもない
私たちGreatRIVERが関わる組織で確かめつづけるのは、その組織が澱んでいないかどうかです。組織の大きさや決裁の速さによって、見るものを変えることはありません。
寄せられる相談の多くは、「デザイナーが足りない」「任せられる外注先を探したい」という形で届きます。話を重ねると、その奥に、問いを立てる人、現場で動かす人、知見を残す仕組みが社内で空いたままになっている構造が見えてくることがあります。人を足しても、問いを立てる席が空いたままなら、大企業病の状態は続きます。この構造は、三つの空席として別に定義しています。
そこで私たちは、社員でも外注でもない立場の創造性人材を、日々の会議と意思決定の場に加えます。担うのは、決めることではなく、前例の外から問いを立てることです。外の問いが入口や手続きで止まらず、判断の場まで届く道をつくるためです。問いが増えても、それを採るかどうかを決めるのは企業の側です。外の問いが入りつづけることと、外の人が決めることは、別のことだと考えています。
大企業病の反対側にある状態を、私たちは澱まない組織と呼んでいます。外の視点が会議と意思決定の場に入りつづけ、新しいプロジェクトが生まれ、それが文化として根づいている組織です。大企業病という言葉で自分たちの組織を見たときに、どこへ向かえばよいかを示すのが、この言葉だと考えています。
まとめ:大きさではなく、問いの入口を見る
大企業病とは、規模ではなく、外の問いが意思決定の場に入らなくなった組織の状態です。決裁の遅さや前例主義は、その結果として表に出てくる症状です。
成功が型を生み、型を守る手続きが外の問いを少しずつ弾いていく。だから組織を小さく分けても、決裁を速くしても、入口が閉じたままなら状態は変わりません。
「うちも大企業病だ」という声が出たら、組織の大きさを嘆く前に、この一年で外から入った問いが、どの会議で止まったかを一つ思い出してみる。思い出したその会議が、最初に開き直す入口です。
執筆:杉山 諒(株式会社アマナ/プロジェクトデザイナー・GreatRIVER主宰)
企業のブランディングや新規事業開発、人材育成など幅広いプロジェクトに参画し、プランニング・ファシリテーションを中心に企画・設計に従事。クリエイティブ人材育成プログラムamana Creative Camp、創造性人材循環事業GreatRIVERを主宰。認知科学コーチ。
GreatRIVERは、プロジェクトデザイナーをはじめとする創造性人材がチームで参画し、構想と推進の両面から企業のプロジェクトに内側から伴走するサービスです。まずは停滞しているプロジェクトの見立てからで構いません。
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