
人が足りないという相談の奥には、たいてい三つの空席がある
来期の人員計画の会議に、各部署から増員の要望が並びます。どの要望にも「人手不足」と書かれています。ところが、その一人に何を任せたいのかを尋ねると、答えは部署ごとに少しずつずれていく。新しい企画を考えてほしい。部署をまたいで話をまとめてほしい。いまの担当が異動しても回るようにしてほしい。同じ「人が足りない」という言葉の下に、別々の不在が隠れています。
私たちGreatRIVERに届く相談も、人手の話から始まることがよくあります。けれど話を聞いていくと、足りないのは作業する手の数ではなく、問いを立てる人、現場で動かす人、知見を残す仕組みのどれか、あるいはすべてであることが少なくありません。私たちはこの構造を「三つの空席」と呼んでいます。
三つの空席とは、問いを立てる人、現場で動かす人、知見を残す仕組みという三つの役割が社内で空いたまま、考える・動かす・残すが止まっている構造のことです(GreatRIVER編集部)。
人手不足は、空いている役割を人数で言い表した言葉
「人手不足」は、決裁の場でいちばん通りやすい言葉です。人数は数えられ、予算にも採用計画にも置き換えやすい。だから役割の不在も、まず人数の言葉で語られます。人手不足という言葉が悪いのではありません。入口の言葉として正直で、使いやすい。気をつけたいのは、その言葉のまま答えまで決めてしまうことです。
私たちは、届く相談を三つの層で受け止めています。いちばん上に見えているのは、「デザイナーが足りない」「知見が足りない」「採用でとれない」という相談です。その下には、課題の整理から一緒にやってほしい、戦略を現場で動くところまで届けたい、社内にナレッジを残したい、という困りごとがある。さらにその奥に、役割が空いたままになっている構造がある。三つの空席は、このいちばん深い層につけた名前です。

どの層から相談が始まってもかまいません。ただ、人数の言葉のまま解こうとすると、空いているのとは別の席に人が座ることがあります。
なぜいま、空席が目立ちはじめたのか
手を動かす仕事の一部は、道具の進歩で補えるようになりました。すでにある問いに答える仕事ほど、速く安くなっていきます。そのぶん、補いにくいものが目立ちはじめています。何を解くかを決め、決めたことを部署をまたいで動かし、その過程を次に残す仕事です。人手不足という言葉は昔から同じでも、足りないものの中身は変わってきていると私たちは見ています。
三つの席には、それぞれ何が空いているのか
問いを立てる人
与えられた課題を解く人はいても、「そもそも何を解くべきか」を言い出す人がいない状態です。日々の業務は回っているので、外からは問題が見えません。新しい取り組みの企画が、前年の延長か、よそで見た事例の言い換えになっているとき、この席は空いていることが多いです。外に何かを頼むときも「何をつくるか」が先に決まり、何を解くかという問いは、誰も持たないまま進んでいきます。
現場で動かす人
方針も承認もあるのに、物事が動かない状態です。方針を部署ごとの言葉に訳し、関係者を巻き込み、決めるべきことを決める場をつくる人がいない。管理職が調整に追われ、決める仕事と手を動かす仕事を同時に抱えているとき、この席は空いています。ここが空くと、良い計画ほど現場の手前で止まり、計画を書いた人の疲れだけが残ります。
知見を残す仕組み
プロジェクトは終わったのに、何を学んだかが組織に残らない状態です。担当が替わるたびに、同じ議論が最初からやり直される。席と書きましたが、ここに座るのは人より仕組みです。この席が空いていると、組織は毎回、そのとき居合わせた人の経験の範囲でしか考えられなくなります。判断の理由が特定の人の頭の中にしかない状態は、属人化として別に定義しています。
三つの席が空きやすいのは、評価にも組織図にも乗りにくいから
問いを立てる仕事は、成果が出るまで時間がかかり、ときに誰かの立場に触れます。動かす仕事は部署と部署のあいだにあり、どこの所管でもありません。残す仕事には、いま急ぐ理由がない。三つとも、いまの評価や組織図の上に置き場所を持ちにくい役割です。
そのうえ多くの組織では、こうした役割を本来業務と掛け持ちで担い、異動で担い手も替わります。兼務のあいだは何とか回っていても、担い手が替わった瞬間に席が空き、推進が途中で止まります。
三つの席は、つながっています。問いがなければ、動かす対象がありません。動かす人がいなければ、問いは議事録の中で終わります。残す仕組みがなければ、次の問いはまた同じところから始まる。一つが空くと、残りの二つも止まりやすい。私たちが三つを一組で見るのは、そのためです。
人を増やしても、空席が埋まるとは限らない
人手不足を人数で解くと、手を動かす人が増え、問いを立てる席は空いたままになることがあります。採用そのものは、能力を組織に残すいちばん確かな方法です。ただ、どの席が空いているかが見えないまま採用すると、求人票は職種の名前で書かれ、入った人はすでにある仕事に吸い込まれていきます。
外に頼む場合も同じです。作業を外に出せば手は増えますが、問いを立てる席と残す仕組みは、社内に戻ってきません。人を並べすぎても、窓口が分かれ、決める場が薄くなります。私たちが良いプロジェクトの条件に最小人数を挙げるのは、この反対側の問題を見ているからです。
確かめるときは、増員の要望ごとに一つ問いを足します。その人がいたら、どの会議で、何を決めることになるのか。答えが作業の量で返ってくるなら手の不足で、判断や役割で返ってくるなら空席です。

GreatRIVERの実践:一人ではなく、席ごとに入る
私たちGreatRIVERは、相談がどの層から始まっても受け止め、まず空いている席を企業と一緒に特定します。成果から逆算して、その組織とプロジェクトに必要な役割を見極め、役割ごとに人を選ぶ。進め方の最初に「役割をデザインする」を置いているのは、そのためです。
中心となる関わり方では、戦略をリードする人と推進をリードする人が企業の内側に入り、役割・判断基準・会議体をつくりながらプロジェクトを動かします。問いを立てる席と動かす席を、別の人が分けて担う形だと私たちは捉えています。異なる部署や専門のあいだに入って話を通じさせることも、動かす席の仕事に含まれます。真ん中に一人だけを置くより、複数の役割で入るほうが空席に届きやすいと考えています。
残す仕組みについては、プロジェクトの間ずっと判断の記録をつけ、組織の知として残しています。ただ、私たちが座りつづけることを目的にはしていません。席の形がはっきりすれば、社員が座る席もあれば、外の視点を入れつづけるために半内部人材が座る席もある。どの席を誰が持つかを決めること自体が、空席を埋める仕事の半分です。
まとめ:人手不足という言葉の下に、どの席が空いているか
三つの空席とは、問いを立てる人、現場で動かす人、知見を残す仕組みが社内で空いたまま、考える・動かす・残すが止まっている構造です。人手不足という言葉は、多くの場合、この空席を人数で言い表したものです。
三つの席はつながっているので、一つだけを埋めても動きは戻りにくい。人数を数える前に、どの席が空いているかを見ることが、人を迎える判断の出発点になります。
来期の増員要望に目を通すとき、それぞれの横に「問う」「動かす」「残す」のどれにあたるかを書き添えてみる。どれにも当てはまらない要望と、誰も要望していない席が、同時に見えてきます。
執筆:杉山 諒(株式会社アマナ/プロジェクトデザイナー・GreatRIVER主宰)
企業のブランディングや新規事業開発、人材育成など幅広いプロジェクトに参画し、プランニング・ファシリテーションを中心に企画・設計に従事。クリエイティブ人材育成プログラムamana Creative Camp、創造性人材循環事業GreatRIVERを主宰。認知科学コーチ。
GreatRIVERは、プロジェクトデザイナーをはじめとする創造性人材がチームで参画し、構想と推進の両面から企業のプロジェクトに内側から伴走するサービスです。まずは停滞しているプロジェクトの見立てからで構いません。
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