
属人化の本当の問題は、人に頼ることではなく理由が残らないこと
部長が二週間の休暇に入ります。その間、いくつかの案件が静かに止まります。誰かが止めたわけではありません。「最後は部長に見てもらおう」と、全員がなんとなく待っているのです。部長が戻ると、溜まっていた案件は一日で片づきます。判断は速く、ほとんど外れません。だからこそ、誰もこの状態を問題だと言い出しにくい。
こうした状態は「属人化」と呼ばれ、経営会議や人事の場でよく悩みとして挙がります。ただ、私たちGreatRIVERは、問題は部長に頼っていることそのものではないと考えています。案件が止まったのは、部長がなぜそう判断するのかという理由が、部長の中にしかなかったからです。
属人化とは、特定の人に仕事や判断が集まることそのものではなく、その人がなぜそう判断したかという理由が組織に残らず、その人がいないと同じ質で決められなくなる状態のことです(GreatRIVER編集部)。
属人化は、頼りすぎの問題ではない
属人化を解こうとして、よく取られる手があります。仕事を標準化し、マニュアルを整え、誰がやっても同じ結果になるようにする。決まった手順で回す仕事なら、これは有効です。
ただ、正解が決まっていない仕事で同じことを進めると、別の問題が起きます。判断の得意な人が、手順に合わせて判断を控えるようになる。誰がやっても同じ結果になる代わりに、誰がやっても同じくらいの結果しか出なくなります。個人の際立った力を消すことは、属人化の解消ではありません。その人の力を、組織の強みとして型にしていくことのほうが大切です。
担当を二人にする手もよく使われます。ただ、二人のあいだで理由が言葉にならなければ、頼る先が一人から二人に増えるだけです。

私たちは、属人化を二つの軸で捉えています。一つは、仕事や判断がどれだけ特定の人に集まっているか。もう一つは、その判断の理由が、どれだけ組織の側に共有されているか。仕事が人に集まっていても、理由が共有されていれば、それは専門性に頼っている健全な状態です。理由が共有されないまま集まっているとき、はじめて属人化と呼ぶべき状態になります。手を打つべきは一つ目の軸ではなく、二つ目の軸です。
見落としやすいのは、仕事は分散しているのに理由も薄い状態です。一見すると属人化が解けたように見えますが、誰も理由を持っていないので、新しい場面に出会うと全員が同じように迷います。
なぜ、属人化は放っておくと深くなるのか
属人化は、誰かが怠けて起きるものではありません。むしろ、判断のうまい人がいる組織ほど起きやすい。その人に任せれば速く、間違いが少ないので、周りは安心して任せます。任される人はさらに忙しくなり、理由を書き残す時間がなくなります。理由が残らないので、周りはその人に聞くしかなくなる。この繰り返しで、集中は少しずつ深くなります。
ここに、人の入れ替わりが重なります。新しい取り組みほど、本来業務と掛け持ちで担われ、異動で担い手が替わります。判断の理由が本人の中にだけあると、異動のたびに、組織はその分野の判断を一から学び直すことになります。引き継ぎ資料に残るのは手順と結論で、どの場面で例外にしてきたのか、なぜその順番なのかは、たいてい書かれていません。
属人化が表に出るのは、たいてい退職や異動が決まってからです。引き継ぎの数週間で慌てて書き出そうとしても、何年分もの判断の理由は、その期間では言葉になりきりません。
問いを立てる人、現場で動かす人と並んで、知見を残す仕組みが空いたままになっている組織は少なくありません。私たちはこれを三つの空席の一つと見ています。属人化は、残す仕組みの席が空いていることが、人の名前で見えている状態とも言えます。
属人化と、組織の暗黙知の関係
属人化は、困りごととして口にされる言葉です。では、そのとき組織から失われているものは何か。私たちはそれを組織の暗黙知と呼び、何を良しとし何を捨てたかという判断の過程だと定義しています。属人化は表に出る症状の名前で、組織の暗黙知は、失われている中身の名前です。属人化に手を打つとは、頼る人を減らすことでも、手順を増やすことでもなく、判断の過程を組織の側に移すことだと考えています。そのため手当ては、人事の施策としてだけでなく、日々の会議の進め方として扱うほうが効きます。判断が下されるその場で、理由が言葉になっているかどうかです。
人がいない日に、同じ判断ができるか
自分の組織の属人化を見分けるには、冒頭の休暇の場面を思い浮かべるのが早道です。その人が二週間いないとき、止まる判断はどれか。
止まる判断を一つずつ見ていくと、二つの種類に分かれます。一つは、その人にしか決める権限がないから止まるもの。これは権限の設計の話で、代わりに決める人を決めておけば済みます。もう一つは、権限はあるのに、ほかの人では理由が分からず決めきれないもの。属人化と呼ぶべきなのは、こちらです。
後者が見つかったら、その人が最近下した判断を一つ選び、なぜそう決めたのかを本人以外が説明できるかを確かめます。説明できなければ、理由はまだ本人の中にあります。説明はできても、似た別の場面で同じ理由を使えないなら、理由は個別の答えとしてしか伝わっていません。
もう一つ、その人の判断が外れたときに、周りが気づけるかも確かめどころです。理由が共有されていない組織では、頼れる人の判断ほど、誰にも検証されないまま通っていきます。これも属人化の危うさの一つです。
外から来た人も、属人化する
この話は、外部の人材にもそのまま当てはまります。外から来た専門家の判断が鋭いほど、組織はその人に頼ります。そして、その人がいなくなると決められなくなる。社員ではない人の中に判断の理由が集まるのは、社内の属人化よりも残りにくい状態です。
私たちGreatRIVERは、半内部人材として創造性人材を企業の内側に迎え入れてもらう仕事をしています。だからこそ、私たち自身が属人化の原因にならないことを重く見ています。登録している創造性人材は94名(2026年9月時点)で、組織とプロジェクトの状況に応じて、関わる人を組み替えることがあります。組み替えのたびに問われるのは、前の担当の判断の理由が、企業の側にも次の担当にも渡っているかです。
参画している人材どうしでも、毎月の場を設けてクリエイティブナレッジを共有しています。企業の中でも、私たちの側でも、ある人にしか分からない判断を残さないことにつながると考えています。「あの人がいないと決まらない」と言われる状態は、私たちにとっては成功ではなく、見直すべき合図です。
まとめ:頼る相手を減らすより、理由を残す
属人化とは、人に頼ることではなく、判断の理由が組織に残らないことです。判断のうまい人に仕事が集まるのは自然なことで、それ自体を消す必要はありません。手を打つべきは、その人がなぜそう決めたかを、組織の側で説明できるようにすることです。
属人化という悩みの奥には、組織の暗黙知が残っていないという、もう一段深い問題があります。人を替えても、手順を増やしても、理由が残らなければ同じことが起きます。
誰かが長い休みに入る前に、手順の引き継ぎとあわせて、最近の判断を三つだけ選び、その理由を書き残してもらう。休み明けに止まっていた案件の数が、その組織の属人化の深さを教えてくれます。
執筆:杉山 諒(株式会社アマナ/プロジェクトデザイナー・GreatRIVER主宰)
企業のブランディングや新規事業開発、人材育成など幅広いプロジェクトに参画し、プランニング・ファシリテーションを中心に企画・設計に従事。クリエイティブ人材育成プログラムamana Creative Camp、創造性人材循環事業GreatRIVERを主宰。認知科学コーチ。
GreatRIVERは、プロジェクトデザイナーをはじめとする創造性人材がチームで参画し、構想と推進の両面から企業のプロジェクトに内側から伴走するサービスです。まずは停滞しているプロジェクトの見立てからで構いません。
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