良いプロジェクトかどうかは、人数ではなく議論の質で分かる

良いプロジェクトかどうかは、人数ではなく議論の質で分かる

新しいプロジェクトのキックオフに、二十人近くが集まります。発注する側の担当者とその上司、関係する部署の代表、受ける側の営業と制作と進行の担当。自己紹介が一巡したころには、予定の時間の半分が過ぎています。議題は滞りなく進み、異論も出ません。けれど会議が終わってみると、このプロジェクトで何を決めるのか、誰が決めるのかは、誰の口からも出ていませんでした。

人が足りないのではなく、人が多いのに議論が薄い。私たちGreatRIVERは、良いプロジェクトをその反対の状態として捉えています。思いを持った人が、然るべき最小人数で集まり、遠慮なく良い議論をしている状態です。成果の大きさや予算の規模ではなく、いまその場で何が起きているかで見分けます。

良いプロジェクトは、結果ではなく「いまの状態」を指す

良いプロジェクトとは、そのプロジェクトに思いを持つ人が、決める人とつくる人を含む然るべき最小人数で集まり、遠慮なく良い議論をしている状態のことです(GreatRIVER編集部)。

この定義には三つの要素があります。

図:良いプロジェクトの三つの要素(GreatRIVER作成)

一つは、思いを持つ人がいること。仕事として割り当てられたから席にいるのではなく、この結果が出てほしいと自分で望んでいる人です。社員でも、外から加わる人でも構いません。外の視点は鋭くても、その企業を好きである理由までは持ち込めない、と私たちは考えています。だから思いは、外から入る人にとっても条件になります。

もう一つは、最小人数であること。少なければ良いという意味ではありません。決める人、つくる人、問い直す人がそろっていて、それ以外の理由で座っている人がいない。一人ひとりについて、その人がいないと何が決まらないかを説明できる人数のことです。「然るべき」と付けているのは、プロジェクトの段階によって必要な役割が変わるからです。問いを立てる段階と、形にして確かめる段階とでは、同じ席に必要な人が違います。

最後が、良い議論をしていること。決める人がその場にいて、つくる人も同じ席にいる。言いにくいことが会議の中で言われ、何を選んだかだけでなく何を捨てたかまで話されている状態です。

私たちは、この状態でこそ成果も出るし、本当に良いものが生まれると考えています。結果はあとからしか分かりませんが、状態はいまこの場で確かめられます。

良いプロジェクトにならないのは、受発注の構造が人を増やすから

クリエイティブに関わる仕事の多くは、発する側と受ける側に分かれて組み立てられています。何をつくるかは発注する会社が決め、どうつくるかを受注する会社が担う。かつては合理的だったからこそ広く行き渡った形で、誰かの悪意でできたものではありません。ただこの形では、決める人とつくる人が、別々の会社に置かれます。

その根には、組織と組織の隔たり、相手への遠慮、リスクを取らない姿勢、そして自社だけが良ければいいという発想がある、と私たちは見ています。リスクを取らないために、発注する側は関係部署の代表をそろえ、受ける側も担当を厚くする。人数を増やして責任を分け合う設計です。その結果、本来必要な稼働や人員よりずっと多くの人が関わり、それでいて議論は薄くなる。責任の所在がぼやけ、誰も決めきらないまま進んでいきます。冒頭の会議室は、その典型です。

図:受発注の構造と、良いプロジェクト(GreatRIVER作成)

受ける側から見ると、何をつくるかは外で決まり、どうつくるかだけが仕事になります。外から加わる人は意思決定に参加できないまま、社内の制約を知らずに、正しいけれど実行できない提言で終わりやすい。報酬の仕組みから見たこの構造は、利害の向きとして別に整理しています。

良いプロジェクトについての、よくある誤解

少数精鋭のことだと受け取られることがあります。けれど、決める人が不在の三人より、決める人を含む五人のほうが、ここで言う最小人数に近い。基準は人数の少なさではなく、役割で説明がつくかどうかです。

成功したプロジェクトのことだ、という誤解もあります。うまくいったプロジェクトの中にも、議論が薄いまま偶然届いたものがあります。反対に、良い議論の末に撤退を決めるプロジェクトもある。なぜやめたかが当事者の言葉で話されているなら、それは良いプロジェクトだったと私たちは考えます。

受発注をやめること、という読み方も違います。つくるものが決まっている仕事なら、受発注の形がいちばん合っています。何を解くかから問い直す仕事に、その形のまま臨むと良いプロジェクトになりにくい、というだけです。

遠慮がないことは、衝突がないことでもありません。仲が良く穏やかな会議ほど、反対意見は会議のあとの廊下で出ていることがあります。

参加者の名簿と、会議が終わった直後で確かめる

状態は目に見えにくいので、手元にあるもので確かめます。

参加者の名簿を開き、一人ずつ「この人がいないと何が決まらないか」を書き添えてみます。書けない人が多ければ、その人数は議論のためではなく、リスクを分け合うために集まっています。

思いは、「このプロジェクトが止まったら、いちばん困るのは誰か」という問いに名前で答えられるかで分かります。答えが部署の名前や「全社」になるなら、思いを持つ人がまだ席にいないのかもしれません。

議論の濃さは、会議が終わった直後の数分に表れます。席を立つ前に、参加者が同じ言葉で「今日、何が前に進んだか」を言えるか。決める人がその場にいて、最後に自分の言葉で引き取ったか。終わったあとに個別の連絡で本音が届くことが多いなら、遠慮はまだ席の中に残っています。

GreatRIVERは、人手ではなく議論が成り立つ役割を持ち込む

私たちGreatRIVERは、創造性人材が企業のチームに加わる形でプロジェクトに関わっています。依頼と納品の関係ではなく、同じチームの一員として日々の会議に出て、外から助言するのではなく議論の当事者になる。受けるでも発するでもない半内部人材という立ち位置は、良いプロジェクトの状態をつくるための選択です。

私たちが提供したいのは、人手ではありません。良い議論ができる場と、その場を成り立たせる役割です。加わるのは、何をつくるかが決まったあとではありません。何をつくるかを決める前の、何を良しとするかという議論から一緒に立てます。週1〜2日を中心に数か月、同じ会議に出つづけるのは、その議論に決める人とつくる人と同じ温度で居合わせるためです。

だから最初に考えるのは、何人入れるかではありません。役割と判断基準と会議体をどう置けば、決める人とつくる人が同じ席で話せるかです。人数を増やしてリスクに備えるのではなく、決め方を先に置いてリスクに向き合う。その設計は意思決定のデザインとして、計画の前に問いと座組みを描く役割はプロジェクトデザイナーとして、それぞれ別に書いています。

関わりはじめてからも、見ているのは人数ではなく議論の状態です。決める人がその場にいるか。言いにくいことが会議の中で言われているか。人が足りないという相談を受けたときも、表に出ている課題から、その奥にある構造までを一緒に見ていきます。人を足すことが、かえって議論を薄くする側に働くこともあるからです。

まとめ:人数を数える前に、議論の濃さを確かめる

良いプロジェクトとは、思いを持つ人が、決める人とつくる人を含む然るべき最小人数で集まり、遠慮なく良い議論をしている状態です。成果や規模ではなく、いまの場の状態で見分けます。人数を増やして責任を分け合う設計は、受発注の構造の中では合理的に見えますが、議論を薄くし、決めきれない場をつくります。

次のキックオフの招集を送る前に、宛先の一人ずつに「この人がいないと何が決まらないか」を書き添えてみる。書けない宛先が多いなら、その人数はまだ、議論のためではなくリスクを分け合うための人数です。

執筆:杉山 諒(株式会社アマナ/プロジェクトデザイナー・GreatRIVER主宰)

企業のブランディングや新規事業開発、人材育成など幅広いプロジェクトに参画し、プランニング・ファシリテーションを中心に企画・設計に従事。クリエイティブ人材育成プログラムamana Creative Camp、創造性人材循環事業GreatRIVERを主宰。認知科学コーチ。

GreatRIVERは、プロジェクトデザイナーをはじめとする創造性人材がチームで参画し、構想と推進の両面から企業のプロジェクトに内側から伴走するサービスです。まずは停滞しているプロジェクトの見立てからで構いません。

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