
決まらない会議に足りないのは、案ではなく意思決定のデザイン
同じ議題が、また次の会議に持ち越されます。資料は回を重ねるごとに厚くなり、比較表には案が一つずつ増えていきます。どの案にも、正面から反対する人はいません。総論では全員が賛成していて、ただ、話が自分の部署の持ち場に及ぶと、少しずつ留保がつく。最後に誰かが「もう少し検討しましょう」と言い、全員がうなずいて会議が終わります。
足りないのは案ではありません。答えの候補は、たいていすでに社内にそろっています。決まらないのは、どう決めるかが決まっていないからです。私たちGreatRIVERは、答えを探しはじめる前に決め方そのものを設計することを、意思決定のデザインと呼んでいます。
意思決定のデザインとは、決め方を先に合意すること
意思決定のデザインとは、答えの候補を探す前に、誰が、何を基準に、どの順で決め、その理由をどう残すかという決め方そのものを設計することです(GreatRIVER編集部)。
重きを置くのは、案の良し悪しよりも、合意に至る道筋です。決め方に先に合意しておけば、案を比べる議論は短くなります。反対に、決め方がないまま案を増やすと、比べる物差しが参加者の数だけ生まれ、全員がそれぞれの物差しで正しいことを言いはじめます。冒頭の会議で起きているのは、この状態です。
決め方は、議論の外側にあるので見落とされがちです。会議の案内には議題と資料が載りますが、その会議で何を決めるのか、決まらなかったら誰が引き取るのかは、たいてい書かれていません。
決まらない理由は、案の不足ではない
案の数と決め方の明確さを二つの軸にすると、決まらない会議がどこにいるかが見えてきます。

案が多く、決め方がない状態では、持ち越しが続きます。新しい案を足すほど比較は複雑になり、決める理由が見えにくくなる。決め方はあっても案が少ない状態では、早く決まりますが、選ばれたものが本当に最善だったかは分かりません。両方がそろってはじめて、組織は選べる状態になります。
それでも決め方が後回しになるのには、理由があります。組織の内側には、評価、上下関係、社内の論理、人間関係、前例が働いています。本質的な問いほど、立てた瞬間に誰かの立場を脅かす。「この件は誰が決めるのか」と口にすることも、誰かの権限に触れる問いなので、社内の人ほど言い出しにくいのです。この構造は内の限界として別に整理しています。
部署をまたぐテーマでは、もう一つ事情が加わります。評価と責任が明確な縦の組織は、決めて正確に動かすのに向いています。けれど複数の部署にまたがる議題は、どの縦の線にも収まりきらず、決める人が宙に浮きやすい。総論賛成・各論反対は、誰かの怠慢ではなく、この宙に浮いた状態から生まれます。
設計するのは、誰が・何を基準に・どの順で・どう残すか
意思決定のデザインで扱うのは、次の四つです。

誰が決めるか。最後に決める人を、会議の前に決めておきます。合議で決めるなら、合議で決めることを決めておく。そして、その人が実際にその会議に出ているかを確かめます。
何を基準にするか。案を見る前に、何を良しとするかを書きます。案を見てから基準をつくると、基準は気に入った案を正当化する道具になりやすいからです。
どの順で決めるか。すべてを一度に決めようとしません。先に決めること、あとで決めること、今回は決めないことを分けます。各論で反対が出るときは、目的より先に手段を決めようとしていることがよくあります。
理由をどう残すか。何を選んだかだけでなく、何を捨て、なぜ捨てたかを書き残します。理由が残らない組織では、同じ議題が数年後に一から議論されます。判断の過程が残ることの意味は、組織の暗黙知の記事で掘り下げています。
根回しやファシリテーションとは、何が違うのか
意思決定のデザインは、いくつかの近い手法と重ねて読まれやすい考え方です。
根回しは、結論を先に定め、その結論への賛成を事前に集める手法です。日本の組織で長く使われてきた合理的なやり方で、否定するものではありません。意思決定のデザインは、結論の前に、決め方への合意を取ります。決め方に合意していれば、結論に反対だった人も、決まったことには従いやすくなります。
ファシリテーションは、場の議論を前に進め、全員が話せるようにする技術です。ただ、全員の納得をゴールに置くほど、総論賛成・各論反対に近づくことがあります。意思決定のデザインは、誰の納得が欠かせず、誰の意見は聞くだけでよいかを、先に分けておきます。
決める人を一人に定めることは、上意下達とも違います。基準と順序が共有されていれば、決めたのが誰であっても、その理由はほかの人が説明できます。評価表や判断の枠組みといった道具を使うこともありますが、どの道具でどの順に決めるかを選ぶところからが、デザインの仕事です。
決め方が設計されているかは、会議の案内と議事録で分かる
決め方は目に見えにくいので、会議のまわりにある紙で確かめます。
会議の案内に、議題だけでなく「今日決めること」が書かれているか。持ち越しになった議題に、次に誰が引き取り、いつまでに何を決めるのかが付いているか。どちらも書かれていなければ、その会議は決める場ではなく、報告と意見交換の場として扱われています。
決まったあとにも手がかりがあります。反対だった人が、自分の言葉で決まった理由を説明できるか。議事録に、選ばれた案と並んで、捨てた案とその理由が残っているか。理由を説明できる人が決めた本人しかいないなら、決め方は共有されていません。
GreatRIVERは、決める席には座らず、決め方をつくる
私たちGreatRIVERは、創造性人材が企業の内側に加わる形でプロジェクトに関わっています。そのときの仕事の一つが、判断の軸をつくることです。意思決定の場に同席し、選ぶための材料と基準を用意する。外から持ち込まれた問いが、役割・判断基準・会議体を通って、はじめて実際のプロジェクトとして動き出すと考えているからです。人数を増やしてリスクを分け合うのではなく、決め方でリスクに向き合う。私たちはそれを、関わりの最初のほうに置いています。
決めるのは、企業の側の責任者です。私たちのような半内部の人材は、社内の評価制度に乗らず、半分は外の立場にいるので、忖度なく問いを立てられます。ただ、問い直すだけでは面白いけれど決まらない。だから問い直すことと、決め方を整えることを組にして考えています。社内の誰かが言えば角が立つ選択肢を、外の立場から比較の机に載せることも、決め方の設計の一部です。
決めたあとも、仕事は続きます。プロジェクトの間ずっと、何を学び、なぜ決め、なぜ捨てたかを記録し、組織の知として残します。次に同じ種類の判断が来たとき、その記録が基準の下書きになります。決める人が自分の考えを外の目で確かめる場については、壁打ちの記事に分けました。
まとめ:案を増やす前に、決め方を一枚に書く
意思決定のデザインとは、答えの候補を探す前に、誰が、何を基準に、どの順で決め、理由をどう残すかを設計することです。答えがそろっているのに決まらない組織に足りないのは、多くの場合、案ではなく決め方です。根回しやファシリテーションと対立するものではなく、それらが働くための道筋を先に引く考え方です。
次の会議の議題の横に、案の数ではなく四つの欄を書いてみる。誰が決めるのか、何を良しとするのか、今日は何を決めて何を決めないのか、理由をどこに残すのか。どれかが空欄なら、次に要るのは新しい案ではなく、その空欄を埋める時間です。
執筆:杉山 諒(株式会社アマナ/プロジェクトデザイナー・GreatRIVER主宰)
企業のブランディングや新規事業開発、人材育成など幅広いプロジェクトに参画し、プランニング・ファシリテーションを中心に企画・設計に従事。クリエイティブ人材育成プログラムamana Creative Camp、創造性人材循環事業GreatRIVERを主宰。認知科学コーチ。
GreatRIVERは、プロジェクトデザイナーをはじめとする創造性人材がチームで参画し、構想と推進の両面から企業のプロジェクトに内側から伴走するサービスです。まずは停滞しているプロジェクトの見立てからで構いません。
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