クリエイティブ経営は、才能に頼らず創造性を組織の働きとして持つ

クリエイティブ経営は、才能に頼らず創造性を組織の働きとして持つ

期初の経営会議で、新しい中期計画の柱が決まります。顧客との関係を、売り切りから長い付き合いへ変える。議論は熱を帯び、方針は全員一致で承認されました。数週間後、その方針を伝える広告とウェブサイトの制作が、宣伝の担当部署を通じて外部に依頼されます。半年後に出来上がったものは美しく、社内の評判も上々です。ただ、営業の現場で交わされる言葉も、顧客への提案の中身も、計画の前と変わっていません。

戦略も表現も、手を抜かれてはいません。途切れていたのは、決める場とつくる場のあいだです。私たちGreatRIVERは、この二つを分けずに、創造性を組織の働きとして回しつづける経営を「クリエイティブ経営」と呼んでいます。

クリエイティブ経営とは、問いを立て、形にし、組織に残すという創造性の働きを、一部の才能や制作の部署に預けず、戦略を決める場と表現をつくる場を分けないまま、組織として回しつづける経営のことです(GreatRIVER編集部)。

なぜいま、創造性を経営の言葉で扱うのか

多くの企業で、創造性は経営の外側に置かれてきました。戦略は経営と企画の部署が決め、表現は宣伝やデザインの部署、あるいは外部の制作会社が担う。役割を分けたことで、それぞれが専門性を磨けたのも事実です。

前提が変わったのは、つくることの重さです。文章も画像も、案を出すだけなら生成AIでいくらでも出せるようになりました。案が安くなるほど、何をつくるべきか、なぜそれなのかを決める仕事の比重が上がります。その判断は、経営の判断と切り離せません。誰に、どんな変化を起こしたいのか。そこを決めないまま表現だけを磨いても、冒頭のように美しいものが残るだけです。

一つのヒットは、個人の才能からも生まれます。けれど生み出しつづけるには、創造性を組織の仕組みとして持つしかありません。創造性そのものの中身は創造性の定義で扱いました。クリエイティブ経営は、その働きを経営の中でどう回すかという話です。

戦略とクリエイティブを分けると、表現は満足で終わる

戦略と表現が別々の場で決まると、あいだで起きることがあります。戦略の側は、方針を言葉にした時点で仕事を終えたと感じる。表現の側は、受け取った方針をできるだけ良い形にすることに力を尽くす。どちらも誠実ですが、誰の行動をどう変えるのかという問いは、どちらの手元にも残りません。こうして表現は、つくって満足したところで終わります。

図:創造性の置き場所(GreatRIVER作成)

反対に、創造性を才能に頼る経営もあります。感覚の鋭い経営者や、社内の名物クリエイターが、戦略と表現を一人で結びつけている会社です。うまくいけば強いのですが、その人の判断の理由は組織に残りません。その人が退いた日に、会社は元の分業に戻ります。

クリエイティブ経営は、このどちらでもありません。戦略と表現を一続きの問いで扱い、しかもそれを特定の誰かではなく、会議体と役割と判断の記録で支えます。図の右上にあたる状態です。

デザイン経営やブランディングとの違いは、扱う範囲にある

近い言葉に、デザイン経営があります。デザインの考え方や手法を経営に生かすという意味で広く使われ、デザイナーが経営に関わることの大切さを伝えてきた言葉です。クリエイティブ経営は、これと対立するものではありません。違いは、担い手を職種で区切らないことです。前提を疑う人は営業にも経理にもいますし、異なる知を結びつけるのが研究者のこともあります。私たちは、デザインの職能に限らず、組織の中の創造性の働き全体を経営の対象にします。

図:クリエイティブ経営と近い言葉(GreatRIVER作成)

ブランディングとも重なりますが、ブランディングが扱うのは主に、相手にどう思い出されるかです。クリエイティブ経営は、そのブランドを生み出しつづける組織の側を扱います。

戦略と表現のあいだを実際に行き来する人を、私たちは組織の翻訳者と呼んでいます。翻訳者は役割の名前で、クリエイティブ経営は、その役割を個人の頑張りにせず組織に置くという、経営の構えの名前です。

よくある誤解は、デザインや広告の予算を増やすことだという受け取り方です。予算が増えても、決める場とつくる場が分かれたままなら、満足で終わる表現が増えるだけです。

すべての社員に発想力を求める経営だ、という受け取り方もあります。けれど、問いを立てる人、形にする人、残す仕組みを整える人が、同じ一人である必要はありません。働きの違う人を同じ議論に置き、組み合わせて回せれば、組織としては創造性を持てます。求めているのは全員の才能ではなく、組み合わせ方の設計です。

自社の経営は、三つの場面で確かめられる

クリエイティブ経営に近いかどうかは、組織図よりも場面で分かります。

まず、直近の大事な意思決定の場に、つくる人がいたかです。方針が決まってから呼ばれたのか、決める前の議論から加わっていたのか。呼ばれる順番は、その組織が創造性をどこに置いているかを正直に示します。

次に、表現の良し悪しが、何の言葉で語られているかです。「きれい」「新しい」で終わっているなら、戦略との接点はまだ細い。誰の行動がどう変わったかで語られていれば、二つはつながりはじめています。

最後に、創造的な取り組みが、特定の人の名前で語られていないかです。「あの人がいるから」で説明がつく成果は、まだ才能の段階にあります。何を良しとし、なぜその案を捨てたのかが記録に残り、別の人が同じ問い方を使えているなら、それは組織の働きです。

GreatRIVERは、広告の予算ではなく経営の判断の場に入る

私たちGreatRIVERは、創造性人材が半内部の立場で企業のチームに加わる仕組みを運営しています。入りたいと考えているのは、広告の予算の場ではなく、経営の判断の場です。戦略も方針も、まだ組織に無いことがあります。その段階から経営層と一緒に方針や体制をつくる相談に、私たちはいちばん力を出せると考えています。

登録している創造性人材は、2026年9月時点で94名です。そのうち79名、84%が戦略と制作の両方を担えます。この組み合わせが、決める場とつくる場を一続きにする足場になっています。

体制を組むときも、出発点は職種ではありません。成果から逆算して、その組織に必要な役割を見極めます。中心になるのは、戦略を担う人と推進を担う人が組んで内側に入る形です。その人たちが、役割、判断の基準、会議体を企業の方々と一緒につくりながら、プロジェクトを動かします。誰がいつ呼ばれ、何を基準に決めるのか。クリエイティブ経営の骨格は、こうした決め方の置き方にあると私たちは考えています。

参画した人材は、表現に入る前に、次の一手そのものを議論します。そのうえで言葉や絵や試作に起こし、現実の反応で確かめる。何を学び、なぜ決め、なぜ捨てたかは記録に残します。目指しているのは、私たちがいる間だけ戦略と表現がつながる状態ではありません。外の人がいない会議でも、つくる人が決める前の議論に呼ばれ、表現が行動の変化で語られる状態です。それが続いている組織を、私たちは澱まない組織と呼んでいます。

まとめ:表現を、行動の変化の言葉で語る

クリエイティブ経営とは、創造性を一部の才能や制作の部署に預けず、戦略を決める場と表現をつくる場を分けないまま、組織の働きとして回しつづける経営です。デザインの職能に限らず、問いを立て、形にし、組織に残す働き全体を経営の対象にします。

確かめる手がかりは、つくる人が呼ばれる順番、表現が語られる言葉、成果が人の名前で語られていないか、の三つです。

冒頭の計画も、承認の前に問いが一つあれば違っていたかもしれません。この方針で、誰の行動が、どう変わるのか。その問いに、表現をつくる人と一緒に答えようとした時点で、戦略と表現は同じ机に載ります。

執筆:杉山 諒(株式会社アマナ/プロジェクトデザイナー・GreatRIVER主宰)

企業のブランディングや新規事業開発、人材育成など幅広いプロジェクトに参画し、プランニング・ファシリテーションを中心に企画・設計に従事。クリエイティブ人材育成プログラムamana Creative Camp、創造性人材循環事業GreatRIVERを主宰。認知科学コーチ。

GreatRIVERは、プロジェクトデザイナーをはじめとする創造性人材がチームで参画し、構想と推進の両面から企業のプロジェクトに内側から伴走するサービスです。まずは停滞しているプロジェクトの見立てからで構いません。

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