デザイン組織が下請けになるのは、決める場に呼ばれないから

デザイン組織が下請けになるのは、決める場に呼ばれないから

木曜の夕方、社内のデザイン部門に一件の依頼が届きます。新しいサービスの案内資料と画面のデザインです。企画書はすでに役員の承認を通り、公開日も決まっています。添えられた一文は「このコンセプトで、来週までに三案ください」。企画書を読んだデザイナーは、想定している利用者の像に引っかかりを覚えます。けれど、それを問い直せる段階はもう過ぎていました。三案は期日どおりに仕上がり、そのうち一案が選ばれます。

デザイナーの腕が足りなかったわけではありません。足りなかったのは、腕を使う前の席です。私たちGreatRIVERは、この状態を「デザイン組織の下請け化」と呼んでいます。

デザイン組織の下請け化とは、社内のデザイナーが、方針や企画が決まったあとに形にする役割だけを任され、何をつくるかを決める場に呼ばれなくなっている組織の状態のことです(GreatRIVER編集部)。

社内にありながら、社外の制作会社と同じ順番で仕事が回ってくる。ここで言う下請けは、雇用の形ではなく、この呼ばれる順番を指しています。

下請け化は、能力ではなく順番の問題

下請け化は、デザイン部門の実力が低いから起きるのではありません。多くの場合、腕は確かで、仕事も速い。むしろ速く確かに仕上げるほど、決まったものを形にする部署として頼られ、その位置が固まっていきます。

順番が固まる理由は、組織の手順の中にあります。企画の部署が案をまとめ、承認を通し、それから形にする部署へ渡す。この手順は責任の所在が分かりやすく、効率的です。評価も、仕上げた制作物の数と質で測るほうが簡単です。一方で、企画の初期段階にデザイナーを呼ぶ会議体や役割は、どこにも書かれていないことが多い。誰も悪意を持っていないのに、社内に受発注の関係ができあがります。

社員だからこそ言いにくい、という事情も重なります。承認を通った企画に異を唱えれば、企画した人や承認した人の判断を問うことになる。評価や上下関係の中で、本質的な問いほど口にしにくくなる構造は、内の限界として別に整理しました。

なぜいま、下請け化を放っておけないのか

形にする手段は、急速に安く速くなっています。案を出すだけなら、生成AIでも外部の制作会社でもできます。決まったものを形にするだけの部署は、こうした手段と速さや費用で比べられやすくなります。

けれど社内のデザイナーには、外の手段にはないものがあります。自社の顧客の使い方や、過去に何を試して何がうまくいかなかったかという文脈です。利用者の体験を、社内の誰よりも具体的に思い描ける人でもあります。冒頭のデザイナーが覚えた引っかかりは、まさにその力から生まれていました。下請け化した組織は、社内でいちばん安く手に入るはずの問いを、自ら手放しています。

時間がたつと、影響はデザイナー自身にも及びます。問いを口にしても届かない経験が重なると、人は問うこと自体をやめていきます。後から入った若手は、決まったものを速くきれいに仕上げることを、デザインの仕事だと覚えます。問いを持つ人ほど、別の場所を探しはじめるかもしれません。下請け化は、部署の位置の問題であると同時に、組織が創造性を育てる力の問題でもあります。

忙しさを減らしても、下請け化は解けない

デザイン部門はいつも忙しい、という声はよく聞きます。ただ、忙しさと下請け化は別のものです。忙しさは量の問題で、人を増やしたり依頼を絞ったりすれば和らぎます。下請け化は位置の問題で、人を増やしても、呼ばれる順番が同じなら位置は変わりません。人が増えて忙しさが和らぐと、問題が解けたように見えることがあります。けれど依頼の届き方は同じままで、こなせる量が増えたぶん、決まったものを形にする部署としての位置はかえって固まります。

デザイン部門を経営の直下に置けば解決する、という考え方もあります。組織図の位置は一つの手がかりですが、それだけでは足りません。直下に置かれても、意思決定の会議に呼ばれず、成果物の数で評価されていれば、実態は同じです。

外部のクリエイターを入れると、社内のデザイナーがさらに下請けになるのでは、という懸念もあります。外の人が企画の上流を担い、社内の人が手を動かすという分け方をすれば、実際にそうなります。だからこそ、外の人と社内のデザイナーが同じ席で、問いから一緒に立てる組み方が要ります。

見分ける手がかりは、最初に声がかかる時点

図:デザイナーが呼ばれる時点(GreatRIVER作成)

自社のデザイン部門が下請け化しているかは、デザイナーが最初に呼ばれる時点で分かります。仕事の段階を一本の軸に並べ、いつ声がかかっているかを確かめます。

日々の仕事にも手がかりがあります。依頼に、なぜそれをつくるのかが書かれているか。書かれているのが形と期日だけなら、理由は別の場所で決まっています。修正の理由が「上がそう言ったから」で返ってくることが多いか。そうなら、デザイナーは判断の過程を見ていません。そして、デザイナーが企画会議の中身を、あとから資料で知ることがないか。会議に居合わせていれば、資料で知る必要はないはずです。

評価の書き方にも表れます。デザイン部門の目標が、制作物の本数や納期の遵守だけで書かれていないか。そうであれば、組織はこの部署に、問いを立てることを最初から期待していないことになります。

GreatRIVERは、社内のデザイナーと同じ席に座る

私たちGreatRIVERは、半内部の立場で企業のチームに加わり、日々の会議や意思決定の場に入ります。デザイン部門と関わるとき、外の人だけが上流に立つ形にはしません。「そもそも何を解くのか」を問い直す議論に、社内のデザイナーにも最初から加わってもらいます。異なる部署のあいだに入って話を通じさせるのも、私たちの役割の一つです。意思決定の場に同席し、選ぶための材料と基準を用意するときも、その基準づくりに社内のデザイナーの目を入れます。利用者の体験を具体的に思い描ける人が基準を書けば、仕上げの段階での手戻りは減っていきます。

図:二つの仕事の進み方(GreatRIVER作成)

私たちは、良いプロジェクトを、思いを持った人が最小人数で良い議論をしている状態だと考えています。決める人がその場にいて、つくる人も同じ席にいる。下請け化は、その反対側にある症状の名前です。

始め方は大きくなくてかまいません。新しい企画の最初の打ち合わせに、社内のデザイナーを一人呼ぶ。そこで出た問いを、企画書の前提の欄に書き残す。小さな順番の入れ替えを繰り返すうちに、呼ぶことが会議の決まりになっていきます。

社内のデザイナーの代わりに形をつくることは、私たちの目的ではありません。外の視点で問いを立て、社内のデザイナーが持つ文脈と組み合わせて形にする。その過程で、つくる人を早く呼ぶ会議の置き方や役割が、組織の中に残ることを目指しています。創造性を一部の部署に預けず経営の働きとして持つ考え方は、クリエイティブ経営として整理しました。

まとめ:作る力より先に、呼ばれる席を見る

デザイン組織の下請け化とは、社内のデザイナーが方針の決まったあとに形にする役割だけを任され、何をつくるかを決める場に呼ばれなくなっている状態です。能力ではなく、呼ばれる順番の問題です。

忙しさを減らしても、組織図の位置を変えても、呼ばれる順番が同じなら解けません。確かめる手がかりは、依頼に書かれた理由、修正の理由、会議の中身を知る時点の三つです。

冒頭のデザイナーが覚えた引っかかりは、承認の前なら企画を強くする材料になっていたはずです。同じ問いが、仕上げの段階では修正の手間にしかならない。下請け化を解くとは、その問いが届く時点を、企画の側へ戻すことです。

執筆:杉山 諒(株式会社アマナ/プロジェクトデザイナー・GreatRIVER主宰)

企業のブランディングや新規事業開発、人材育成など幅広いプロジェクトに参画し、プランニング・ファシリテーションを中心に企画・設計に従事。クリエイティブ人材育成プログラムamana Creative Camp、創造性人材循環事業GreatRIVERを主宰。認知科学コーチ。

GreatRIVERは、プロジェクトデザイナーをはじめとする創造性人材がチームで参画し、構想と推進の両面から企業のプロジェクトに内側から伴走するサービスです。まずは停滞しているプロジェクトの見立てからで構いません。

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