
新規事業に向いている人は、一人の資質ではなく組み合わせで決まる
新規事業室の最初の報告会で、事業計画が配られます。市場の規模、初年度の売上、損益が黒字に転じる月。表には空いた欄が一つもありません。並んだ案を順にめくると、どの案も、既存の取引先のどこに持っていけばよいかが、すぐに思い浮かびます。この室を任されたのは、既存事業で数期続けて目標を超えてきた人です。発足が告げられた日、その人選に異を唱える人はいませんでした。
新規事業に向いている人を、一人の資質で探そうとすると、答えはなかなか見つかりません。新規事業に向いているのは、決まった勝ち方の前提を問い直せる人と、その人と組んで事業を動かせる人の組み合わせです。既存事業のエースは、動かす側として新規事業に欠かせない人です。ただ、一人でリーダーを任されると、既存事業で磨いた強みが、新しい事業の手前で裏返ることがあります。

新規事業に向いている人とは
好奇心がある、粘り強い、変化を楽しめる、巻き込む力がある。「向いている人の特徴」の一覧は、どれも大切な資質です。けれど、この一覧を手にメンバーを選ぶと、行き着く先は社内でいちばん実績のある人になりやすい。実績のある人ほど、その多くを備えて見えるからです。
新規事業に向いている人とは、決まった勝ち方の中で正しく速く判断できる人よりも、その勝ち方の前提を問い直せる人と、その人と組んで事業を動かせる人のことです。一人の資質より、見方の違う人の組み合わせで考えます(GreatRIVER編集部)。
同じ人でも、置かれる場所と組む相手によって、同じ強みの働き方が変わります。人を一人ずつ見て丸をつけるより、チームとして何がそろっているかを見るほうが、人選の手がかりははっきりします。
既存事業のエースが、新規事業に選ばれる理由
エースが選ばれるのには、十分な理由があります。何から手をつけ、どこで手を抜かず、いつまでに何を終えればよいかを知っている。営業の手を借り、開発に相談し、経理に予算を通すとき、この人の頼みならと話を聞いてもらえる。決める場面で迷わず、周りはその人の下でなら動けると感じています。どれも、既存事業という決まった場の中で磨かれてきた強みです。場が変わったときにどう働くかは、任命の時点ではまだ見えていません。
エースの強みが、新規事業で裏返る場面
既存事業で正しかった勝ち方を、勝ち方のまだない場所でも正しく使おうとする。裏返りは、その真面目さから起こります。
「速く決める」が、確かめる前に案を一つに絞らせる
選択肢がおおむね出そろった既存事業では、迷う時間はそのまま機会を逃す時間になります。けれど新規事業の最初の数か月は、どの案に買う人がいるのかを確かめる期間です。ここで速く決めると、発足から二週目には三つあった候補が一つになり、残りの期間はその一つを磨くことに使われる。報告会の計画に空いた欄がないのは、その結果でもあります。
「数字で説明できる」が、まだ数字にならない案を先に外させる
社内の承認を得るには、数字の裏づけが欠かせません。けれど誰も売ったことがない案には、根拠になる過去の数字がありません。数字で説明できる人ほど、こうした案を「説明できない案」として先に外し、残るのはすでにある市場によく似た案になります。整った数字は、案が新しくないことの表れでもありえます。
「既存の顧客をよく知っている」が、事業を既存の顧客の延長に置かせる
誰に電話をすれば話が早いか、どの会社が何に困っているか。この知識は長い時間をかけてしか身につかない財産ですが、新規事業では最初の問いを「いまの顧客のうち、誰ならこれを買ってくれるか」にしてしまいます。既存の顧客に売れる事業が悪いわけではありません。ただ、誰に、何を、どう売るかそのものは、一度も問われないまま計画ができあがります。

点線から上の速さと正確さは、評価の場で目に入る強みです。既存事業では、誰に、何を、どう売るかを問わずにすむからこそ、それが成り立っていました。新規事業で問われるのは、まさにその問わずにすんできたところです。勝ち方を知っているからこそ、別の勝ち方を探すより先に、答えが出てしまう。
新規事業に要るのは、勝ち方を問い直す人と、決めて動かす人の組み合わせ
では、エースに新規事業を任せないほうがよいのか。そうではありません。組織の働きを、決めて動かす縦と、つないで問い直す横に分けてみます。縦だけだと効率的だが新しいものが生まれにくく、横だけだと面白いが決まらない。両方が噛み合うことで、組織は動きながら変わりつづける、と見ることができます。
あの報告会に、横の働きをする人が一人いたとします。その人は数字の欄より顧客の欄を指して、この案はいまの取引先がいなくても成り立つかと尋ねる。エースはその問いにも、速く、正確に答えを探しはじめるはずです。探す途中で、取引先がいなくても成り立つ案が一つでも候補に残れば、計画の顔ぶれは変わります。決めて動かす力は、問われたあとでいちばんよく働きます。問うことの得意な人だけのチームが計画を固められずにいるとき、欠けているのもエースの力です。
報告会で起きていたのは、エースが一人で縦と横の両方を担おうとしたことでした。役を重ねると、得意な縦の働きが勝ちやすくなります。
チームには、この事業をやりたい理由を、自分の言葉で持っている人も要ります。全員が「任されたから」ここにいるチームの議論は、正しくても熱を帯びにくく、行き詰まったときに粘る理由も見つかりにくくなります。

決めて動かす人、問い直す人、そしてこの事業をやりたい理由を持つ人。三つが重なったところに、良い議論が生まれます。人数は多くなくてかまいません。
新規事業のメンバーの選び方:エースと組む人を選ぶ
組む相手は、別の事業や違う職種の人、入社して日の浅い人、社外から関わる人など、エースと同じ勝ち方を共有していない人です。同じ部署で同じ顧客を見てきた人は、いまの顧客の延長を疑う相手になりにくく、エースの部下だった人も、評価をつける相手に「そもそも、この顧客でいいのでしょうか」とは言いにくいものです。
発足の時点で、エースと問い直す人の二人を、同じ重さでメンバー表に載せる
最初の数週間は、案を一つに絞る前に、誰に、何を、どう売るかを二人で話す時間を予定に入れる
この事業をやりたい理由を持つ人を、職位や経験にかかわらず一人入れる
問い直す人は、案を絞る前に、誰に売るのかを何度でも尋ねる。エースは、確かめる値打ちのある案を残し、段取りを組む。決めるのはエースのままで、その手前に、問われる時間が一度挟まるだけです。
うまく進まないとき、手を打ちたくなるのはリーダーの交代です。けれど次のリーダーにも、別の部署で実績を上げてきた人が選ばれやすく、同じ組み立てのままなら同じ裏返りが起こりえます。エースを替えるより、エースと組む人を替える。
私たちGreatRIVERがプロジェクトに加わるとき、意識しているのは、この横の働きを担うことです。半内部の立場で加わる創造性人材は、社内の評価制度に乗らず、半分は外の立場にいるため、忖度や迎合なしに本質的な問いを立てられる、と私たちは考えています。良いプロジェクトとは、思いを持った人が、必要な最小の人数で、良い議論をしている状態だと見ています。

まとめ:リーダーの向かいの席
新規事業に向いている人は、一人の資質の一覧からは見つかりにくいものです。決まった勝ち方の前提を問い直せる人と、その人と組んで事業を動かせる人。そこに、この事業をやりたい理由を持つ人が加わった組み合わせが、新規事業のチームの芯になります。既存事業のエースは、その中で決めて動かす側を担う、欠かせない一人です。
新しい事業室の最初の打ち合わせで、リーダーの向かいの席には、その人の勝ち方をまだ知らない誰かが座っているでしょうか。
執筆:杉山 諒(株式会社アマナ/プロジェクトデザイナー・GreatRIVER主宰)
企業のブランディングや新規事業開発、人材育成など幅広いプロジェクトに参画し、プランニング・ファシリテーションを中心に企画・設計に従事。クリエイティブ人材育成プログラムamana Creative Camp、創造性人材循環事業GreatRIVERを主宰。認知科学コーチ。
GreatRIVERは、プロジェクトデザイナーをはじめとする創造性人材がチームで参画し、構想と推進の両面から企業のプロジェクトに内側から伴走するサービスです。まずは停滞しているプロジェクトの見立てからで構いません。
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