新規事業のテーマは、市場の数字にまだ表れない問題の中にある

新規事業のテーマは、市場の数字にまだ表れない問題の中にある

半年かけて集めた候補テーマの一覧表が、検討会の前日に仕上がります。三十ほどの行に、テーマの呼び名と市場の大きさの見立て、ここ数年の伸び率が並び、どの行にも出典が添えてある。ところが通して読み返すと、いくつかの行は、同業の他社が昨年発表した新事業と、ほとんど同じ言葉で書かれていました。

新規事業のテーマが見つからない、アイデアが出ないと感じるのは、市場の数字に現れる問題を、多くの会社が同時に見ているからです。まだ数字にならない問題は、人と、人を取り巻く環境のずれの中にあります。新規事業のテーマの探し方は、市場の表を読みつづけながら、そのずれの現場を、もう一つの探し先に加えることです。

挿絵:大勢が同じ一つの島を双眼鏡でのぞく

新規事業のテーマが見つからない理由

テーマ探しを任された人の多くは、まず市場を調べます。伸びている領域、規模の大きい領域、顧客の不満が多い領域。報告書や業界紙を読み、競合を追い、社内からアイデアを募る。どれも手堅く、欠かせない進め方です。それでも手応えがないとき、理由は努力の量とは別のところにあります。

新規事業のテーマが見つからないのは、多くの人が抱え、解けば利益が出る問題の多くがすでに解決され、残っているのが、解いても採算が合わない問題か、まだ誰も問題だと気づいていない問題だからです(GreatRIVER編集部)。

目を向けたいのは、問題の「数」より「位置」です。アイデアが出ないとき、人は発想法を学び、意見を出し合う回数を増やします。けれど発想を広げる先が、多くの人が見ている問題のあたりにとどまるかぎり、出てくる案は、誰かがすでに考えた案に近づいていきます。

多くの人が抱えていた問題は、すでに解決されてきた

問題を二つの軸に置いた地図で見てみます。横軸は抱える人の多さ(左ほど多い)、縦軸は解く難しさ(上ほど難しい)です。ビジネスと社会のこれからをめぐる経営の議論の中で、経済的に割に合うかどうかの境目を一本の曲線で表した概念図が語られてきました。下の図は、その考え方を借りて問題の居場所を四つに分けたもので、元の概念図も下の図も、数値に基づくものではありません。

図:問題の地図(概念図)(GreatRIVER作成)

左下にあるのは、多くの人が抱え、比較的解きやすい問題です。食べるものが手に入りにくい、遠くへ移動するのに時間がかかる、離れた人と連絡がとりにくい。解けば多くの人が対価を払うため、多くの企業が長い時間をかけて一つずつ解いてきました。モノと便利さは行き渡り、多くの人が共通に抱えていた問題は、ほぼ解決されたと言えるところまで来ています。

もっと速く、安く、手軽にという改善の余地は残りますが、それは同じ問題をすでに解いている会社どうしの競い合いです。効率化や合理化を突き詰めるだけでは、成長の次の一手が見出しにくい。市場が成熟するとは、こういう状態です。

私たちGreatRIVERも、この見方を企業の新しい取り組みに関わるときの出発点に置いています。解決された問題の周りで競う道とは別に、「自分たちから問いを立て、ありたい未来を描き、まだない価値を生み出していく」道があると考えているからです。

残っている二つの問題:割に合わない問題と、まだ気づかれていない問題

一つめは、地図の左上と右下にあります。左上は、多くの人が抱えているのに解くのが難しすぎる問題。右下は、解き方の見当はついても抱える人が少ない問題です。どちらも得られるものが手間や費用に見合いにくく、だから残っています。候補の一覧表では「市場が小さい」「回収までが長い」と注記されて下のほうに並びます。割に合わないという判断は、いまの環境での計算として多くは無理がなく、ここを主戦場にするかは慎重に考えてよい問いです。

二つめは、地図の右上に仮に置いた、まだ誰も問題だと気づいていない問題です。抱えている人はいても、本人もそれを問題と呼ばず、不便を当たり前として受け入れている。だから調査の項目にならず、不満の声として集まることもありません。市場の表に現れないのは、まだ誰もその行の見出しを書いていないからです。

テーマが見つからないと感じるとき、目はたいてい地図の左下に向いています。数字がそろい、社内で説明しやすいからです。けれど左下には多くの会社が集まり、右上の問題は数字を集める方法だけでは見つかりません。要るのは、調べる量を増やすより、探し方をもう一つ足すことです。

新しい問題は、人と環境のずれから生まれる

新しい問題は、人と、人を取り巻く環境のずれから生まれます。

働き方、家族の形、都市のあり方、社会の仕組みや技術、倫理観や地球環境の制約。暮らしを囲む環境は変わりつづけ、人の側の身体や欲求も時代とともに少しずつ変わります。家で仕事をする日が増えた人は、食卓の端にノートパソコンを置き、昼になるたびに片づけています。昨日まで噛み合っていた暮らしと仕組みが少しずつ合わなくなる。その合わなさの中に、まだ呼び名のない問題があります。

ずれの始まりは目立ちません。人は合わなくなった仕組みに、黙って自分のほうを合わせます。手間を一つ増やし、我慢を一つ覚え、間に合わせの工夫で乗り切る。不満として口にされる前に吸収されるので、調査票の選択肢には上がってきません。

あの一覧表の行は、どれも市場の表から作られていました。市場の大きさや伸び率は、すでに誰かが問題として名指しし、解きはじめている領域でこそ測れる数字です。同じ表を同業の他社も読んでいる以上、テーマが他社の新事業と同じ言葉になったのは自然な成り行きでした。足りなかったのはテーマではなく、探しに行く場所です。

新規事業のテーマの探し方:市場の表から、ずれの現場へ

市場の表を手放す必要はありません。変えるのは読む順番です。表の中からテーマを選ぶのでなく、ずれの現場で見つけた問題を、あとから表に照らして、どれほどの人に広がりうるかを見立てる。現場を探す手がかりは、環境の側の変化から人の側の暮らしをたどることです。

働き方が変わった場所。自宅が仕事場を兼ねると、仕事と家事の時間の区切り方や、家の中での場所の分け方が変わります。以前の暮らしに合わせた住まいや道具を使いながら、人はどこで不便を飲み込んでいるか。

家族の形が変わった場所。世帯に暮らす人の数や組み合わせが変わると、かつて家族の中で分け合っていた役割を、誰が、どこで担うのかが分からなくなります。

都市が変わった場所。住む場所と働く場所の関係や移動の仕方が変わると、毎日の動線に以前はなかった乗り換えや遠回りが生まれます。

倫理観や環境の制約が変わった場所。かつて気にせず使えた便利さにためらいを覚える人は、使いたい気持ちとのあいだでどう折り合いをつけているか。

どの場所でも、見るのは人の工夫と我慢です。冷蔵庫の扉に何枚も重ねて貼られた予定表、私用と仕事用で使い分けている鞄の中身、毎朝同じところで一度立ち止まる手順。本人が不満と思っていない手間の中に、環境の変化に人の側が追いついていない箇所が見えます。こうした光景は会議室で発想を広げても出てこず、現場に足を運び、時間をかけて見ることで目に入ってきます。

見つけたずれは、一覧表の行の書き方も変えます。市場の呼び名のかわりに、どんな環境の変化の中で、誰が、何に自分を合わせているのかを書く。その会社がその現場で見たことから書かれた行は、他社の新事業と同じ言葉にはなりにくくなります。

挿絵:家の台所で、冷蔵庫の前に立ち止まる人を見る

まとめ:市場の表と、ずれの現場

新規事業のテーマ探しで、市場の表が教えてくれるのは、すでに名指しされた問題の大きさです。まだ呼び名のない問題は、人と、人を取り巻く環境のずれの中で、不満の声になる前の小さな工夫や我慢として現れます。市場の表を読む手は止めずに、ずれの現場をもう一つの探し先として持つ。

冷蔵庫の扉に、何枚も重ねて貼られた予定表。その前で毎朝一度立ち止まる人は、それを不便とは呼んでいません。次のテーマの一行目は、その立ち止まりから書けるでしょうか。

執筆:杉山 諒(株式会社アマナ/プロジェクトデザイナー・GreatRIVER主宰)

企業のブランディングや新規事業開発、人材育成など幅広いプロジェクトに参画し、プランニング・ファシリテーションを中心に企画・設計に従事。クリエイティブ人材育成プログラムamana Creative Camp、創造性人材循環事業GreatRIVERを主宰。認知科学コーチ。

GreatRIVERは、プロジェクトデザイナーをはじめとする創造性人材がチームで参画し、構想と推進の両面から企業のプロジェクトに内側から伴走するサービスです。まずは停滞しているプロジェクトの見立てからで構いません。