
外部パートナーへの丸投げは、任せすぎではなく決める人の不在から起きる
件名の頭に「Re:」が三つ並んだメールが、受信箱のいちばん上に届きます。最初の一通で、担当者は依頼の背景と納期を書き、「進め方はお任せします」と結びました。外部パートナーから返ってきたのは、よく練られた二つの案と、「どちらで進めるか、ご判断いただけますと幸いです」という一文です。どちらにも良さを感じた担当者は、感想を添えて、改めて進め方を委ねる返信を送る。次に届いたメールも、ご判断いただけますと幸いです、で結ばれていました。どの文面にも、手を抜いた跡はありません。それでも、仕事は一歩も前に進んでいません。
外注や業務委託で外部パートナーに仕事を任せたとき、丸投げが起きる理由は、任せた仕事の量にあるのではありません。誰が、どの場で決めるのかを置かないまま、仕事を始めてしまうことにあります。決める人は、片方からではなく両側から、同時にいなくなります。丸投げを防ぐために先に要るのは、任せる前に、決める人と決める場を書いておくことです。

外部パートナーへの丸投げとは
丸投げという言葉は、仕事を押しつけたまま何もしない依頼主の姿と結びつけて使われがちです。けれど冒頭の担当者は、背景も納期も書き、返信のたびに感想を添えていました。そこで、言葉を次のように置き直してみます。
丸投げとは、仕事を外部に任せるときに、作業と一緒に判断まで手放し、任せた側にも任された側にも決める人がいなくなった状態のことです。任せた量の多さではなく、判断の置き場所が決まっていないことから起きます(GreatRIVER編集部)。
大きな仕事を丸ごと任せても、何を良しとするかを依頼する側が握り、迷ったときに誰へ聞けばよいかが分かっていれば、丸投げにはなりません。反対に、ごく小さな依頼でも、決める人が見当たらなければ丸投げになる。その空席は、任せた側と任された側の両方でつくられています。
任せた側で起きていること
外部パートナーに頼むのは、社内にない専門性が要るからです。頼んだ以上、素人の意見で専門家の仕事を曲げてしまうのではないかと口をつぐむ。相手への敬意から来るふるまいです。
もう一つ、窓口の担当者が最後に決める人とは限りません。二つの案のどちらを採るかを本気で決めようとすれば、上司に時間をもらい、関係する部署の意向を聞いてまわることになる。その手間を思うと、専門家に選んでもらうほうが早く見えます。「お任せします」という一文には、ときに「私にも決めきれません」という意味が畳まれています。
社内への報告は「パートナーに任せています」になり、案を見比べれば決められたかもしれない人は、案が二つあることすら知りません。つまずきは任せたことそのものではなく、任せる仕事と一緒に、選ぶ役まで相手の側へ送ってしまったところにあります。
任された側で起きていること
パートナーは、つくり方については十分な知見を持っています。けれど、どちらを採るかは、つくり方の良し悪しだけでは決まりません。最終的に誰が使うのか。今期、会社は何を優先しているのか。予算はどこまで動かせるのか。こうした社内の事情は、依頼のメールにはまず書かれていません。事情を知らないまま外の人間が決めるのは出過ぎたことに思え、だから選ぶ役を戻す。「ご判断いただけますと幸いです」は、依頼主の領分を尊重しようとする誠実さの表れでもあります。
差し戻しが続けば、前に進めるためにパートナーが自分で決める場面もあります。案のAで進め、納める。ところが最後の確認の場で、それまでメールに一度も登場しなかった上司が「思っていたものと違う」と口にする。その選択は、社内で決める力を持つ人の目を一度も通っていなかった。だから最後に覆ります。差し戻しの往復と、ひとりで決めて覆される結末は、見た目は正反対でも、根は同じところにあります。
丸投げが起きる理由は、判断の置き場所を決めずに始めること
決めるのに要るものを、材料と場の二つに分けてみます。材料とは、案の良し悪しを見分ける知見と、社内の事情や優先順位、予算の幅のこと。場とは、決めたことが社内で通り、あとから覆らない席のことです。

パートナーは比べるための材料を誰よりも多く持っていても、決めたことを社内で通す場にはいない。担当者は社内の場の近くにいますが、案を見分ける知見も、上の意向も手元にありません。メールの往復は、互いに相手を右上の「決める人」と見なして、選ぶ役を送り合っている状態です。けれど実際には、どちらもそこに座っていない。スレッドは、左下の誰もいない場所で、丁寧な言葉のまま往復を続けます。
決める人とつくる人が別々の会社にいること自体は自然なことです。丸投げになるのは、材料と場をつなぐ人を誰も持たないまま始めたときです。任せたのは手を動かすことで、決めることは、まだどちらの手にも渡っていなかったのです。
丸投げを防ぐには、任せる前に、誰が決めるかを書く
丸投げは、任せすぎることではありません。決める人を、置き忘れることです。だから防ぐ手立ては、依頼を始める前に、任せることと、一緒に決めることと、手元に置いておくことを書き分ける一手間にあります。

「任せること」は、作業と作り方、期日と、手がける量です。ここは専門の人に思い切って委ねてかまいません。冒頭の担当者が感じていた敬意は、この部分ではよく働きます。
「一緒に決めること」は、何を良しとするかと、途中で前提を変える条件です。冒頭のすれ違いは、ほとんどがここで起きていました。速さなのか、使う人の分かりやすさなのか、社内の誰かを説得できることなのか。それが言葉になっていれば、パートナーは材料を持って選べ、担当者も案を見比べる手がかりを持てます。前提が揺らいだときにどこで相談し直すかも、ここで決めておきます。
「手元に残すこと」は、最後に決める人と、その人が案を見る場です。窓口の担当者が決めきれないなら、それは隠さなくてよいことです。最後に決めるのは誰かを名前で書き、その人が案を見る打ち合わせを、始める時点で予定に入れておく。任された側にとっては、選んだ案を返す先がはっきりすることのほうが、ずっと動きやすいのです。
私たちGreatRIVERは、受発注の関係に起きがちなこととして、決める人とつくる人が別々の会社に置かれ、関わる人数は多いのに議論が薄くなり、誰も決めきらないまま進んでしまう場面を見てきました。受発注の関係そのものを否定したいわけではありません。そのうえで私たちは、最小人数で、先に決めることを関わり方の土台に置いています。役割・判断基準・会議体を最初に置き、人数ではなく、決め方でリスクに向き合う。三つの書き分けは、この考え方を依頼の一通目に持ち込んだものです。任せる仕事を広げるほど、決める人と場を言葉にしておく意味は大きくなります。

まとめ:最初の一通に、決める人を書く
任せた側は敬意と手間から決める打ち合わせを退き、任された側は依頼主の領分を思って選ぶ役を戻す。両側の配慮が重なったところで、決める人の姿が見えなくなります。始める前に、任せることと、一緒に決めることと、手元に置いておくことを書き分ける。そうすれば、どちらの案を採るかは、決める人の手の中に収まります。
次の依頼のメールを書くとき、背景と納期の前に、一行だけ足してみる。この件を最後に決めるのは誰で、その人がいつ案を見るのか。その一行が最初の一通にあれば、件名の「Re:」が三つ並ぶ前に、スレッドはもう次の話に移っているはずです。
執筆:杉山 諒(株式会社アマナ/プロジェクトデザイナー・GreatRIVER主宰)
企業のブランディングや新規事業開発、人材育成など幅広いプロジェクトに参画し、プランニング・ファシリテーションを中心に企画・設計に従事。クリエイティブ人材育成プログラムamana Creative Camp、創造性人材循環事業GreatRIVERを主宰。認知科学コーチ。
GreatRIVERは、プロジェクトデザイナーをはじめとする創造性人材がチームで参画し、構想と推進の両面から企業のプロジェクトに内側から伴走するサービスです。まずは停滞しているプロジェクトの見立てからで構いません。
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