創造性が生まれる組織文化は、言い出した人に一人で背負わせない

創造性が生まれる組織文化は、言い出した人に一人で背負わせない

帰り際、コートに袖を通しかけた上司に、ある社員が声をかけます。「あの手順、変えたほうがいい気がします」。上司は少し考えて、そうだね、と答えました。数日後の朝、チームに担当の割り振りが回ってきます。手順の見直しという項目が一つ増えていて、その横には、言い出した本人の名前がありました。半年後、その人はもう、何かを変えたほうがいいとは言わなくなっています。

創造性が生まれる組織文化をつくるとき、先に要るのは、アイデアを集める仕組みより、問題に気づいた人が、それを口にしたあとも孤立しない習慣です。違和感に気づいた人がそれを口にでき、見つけた人と担う人を分けて考え、見つけたこと自体を称える。この三つが日々の仕事の中で回っていると、新しいものは生まれやすくなります。

挿絵:芽を持ったまま一人で立つ社員と、空の温室

創造性が生まれる組織文化とは

組織文化という言葉は広く、理念や行動指針を指す人もいれば、職場の雰囲気を指す人もいます。創造性との関わりで言えば、次のように言い表せます。

創造性が生まれる組織文化とは、問題に気づいた人がそれを口にでき、一人で抱えずに誰かと担える習慣が、日々の仕事の中にある状態のことです。優れた成果物を一度つくることより、この習慣が続いているかどうかで決まります(GreatRIVER編集部)。

文化は制度の中より、誰かが違和感を口にしたときの周りの応じ方の積み重ねの中にあります。同じ制度を持つ二つの組織で、片方では問題が次々に上がり、片方では誰も何も言わない。違いをつくっているのは、たいてい応じ方のほうです。

アイデアを募る制度が、文化にならないとき

創造性を高めたいとき、多くの組織が最初に手をつけるのは、提案制度やアイデアコンテスト、優れた案の表彰です。埋もれていた案が上がり、挑戦した人が評価される。確かな意味のある制度です。

ただ、これらが歓迎しているのは、多くの場合「答え」です。提案書には課題の欄の下に解決策の欄があり、審査では案の新しさと実現の見込みが比べられる。まだ答えを持たない「この手順、何かおかしい気がする」という気づきは、この書式からはみ出し、帰り際の一言として消えていきます。

もう一つ、多くの提案制度には「提案した人が実行する」という前提があります。熱意があり、問題を一番よく知っている人に任せるのは自然です。ただ、この前提が問題の段階にまで広がると、口にすれば、それが自分の仕事になる。人は口にする前に、自分の手が空いているかを考えるようになります。

図:答えを歓迎する文化、問題を歓迎する文化(GreatRIVER作成)

左の三つは、どれも良い制度です。足りないのは、答えを持たないまま問題を出せる入口と、出した人が一人で背負わずに済む決め方です。答えを歓迎する文化に、問題を歓迎する文化を足す。創造性が生まれる組織文化は、この足し算から始まります。

言い出した人が、次から黙るまで

冒頭の上司は、何も間違ったことをしていません。気づいた人に任せるのは、期待の表れでもあります。

ところが任された側には、もともとの仕事があります。手順を変えるには隣の部署の了解も、長くその手順で働いてきた先輩の納得も要る。一人で調整を重ね、なかなか進まないうちに「あの見直し、どうなった?」と聞かれるようになる。気づいたことが、仕事を一つ増やし、進み具合を問われる理由になりました。

周りの人もそれを見て、口にすれば自分の仕事になると学びます。誰も「言うな」とは言っていません。黙ることは、恐れからではなく、静かな計算から始まります。表に出なかった問題は消えるのでなく、大きくなってから別の誰かの前に現れます。組織が失っているのはアイデアの数より、問題が小さいうちに見つかる機会のほうです。

創造性を高める組織は、つくったものより、生み出しつづける力を評価する

これまで企業の創造性が語られるとき、評価されてきたのは、優れた広告やキャンペーンといった「つくったもの」でした。これを Creative Output と呼ぶなら、いま問われるようになっているのは Creative Engine、新しいものを生み出しつづける組織の力のほうです。その中には、ブランドのポジショニングや顧客体験の設計と並んで、人材と組織文化、協働の仕組みも数えられています。

帰り際の一言は、それ自体はまだ何も生んでいません。けれど生み出しつづける力の一番手前にあるのは、こういう一言が出てくるかどうかです。アイデアを募る制度は案の良し悪しを比べるので Output の評価に寄り、問題を言い出せる文化は、案が出てくる前の段階を支えます。言い出した人が黙る組織では、Engine の最初の部品が、音もなく欠けていきます。

創造性が生まれる組織文化のつくり方:見つける人と担う人を分ける

見つけること、担うこと、称えることを、別々のこととして扱います。冒頭の件では、この三つがすべて言い出した本人一人に重なっていました。

図:問題を一人に背負わせない三つの習慣(GreatRIVER作成)

見つける:違和感を、答えのないまま口にできる

提案制度とは別に、解決策の欄のない「気になっていること」の置き場所を設ける。週の終わりに、気になっていることを一つずつ挙げる時間をとる。大切なのは、問題を出すときに答えを求めないことです。打ち明けられたとき、最初に「じゃあ、どうしたらいいと思う?」と返すより、「気づいてくれてよかった」と返すだけで、口にしたことの意味が変わります。

担う:見つけた人に、そのまま預けない

担う人は、言い出した人に自動的に割り当てず、手を動かす時間があるか、関係する部署に話を通しやすいか、決める権限に近いかで選びます。見つけた人は、問題の一番の理解者として相談相手になる。担う人が一人で背負わないよう、少なくとも二人で持つ。冒頭の上司が「誰と一緒にやるのがいいと思う?」と一言添えていたら、割り振りの欄には名前が二つ並んでいたかもしれません。

称える:見つけたことを、解いたことと別に評価する

多くの評価の仕組みは、問題を解いた人に光を当てます。見つけた人が報われないままだと、問題は解ける人が現れるまで表に出てきません。振り返りや評価面談で「何に気づいたか」を話題にし、問題が解けたときには、最初に気づいた人の名前も挙げる。

どれか一つだけでは足りません。入口があっても、出した人がそのまま担当になるなら、やがて入口は使われなくなる。問題を見つけた人を、問題の持ち主にしない。三つを分けて持つことは、この一点に向かっています。

組織文化が育っているかは、どこで確かめられるか

私たちGreatRIVERは、企業の内側に外の視点が入り、新しい取り組みが生まれ、それが文化として根づいている状態を「澱まない組織」と呼び、9つの指標に分けて測ろうとしています。そのうち4つは、まだ測れていません。「外から問いが持ち込まれた回数」「企業の社員が起案したプロジェクトの割合」「社員が主役になって動いた場面の数」「支援終了後も判断の型が使われているか」。数字がそろうまでは効果があったとは書かない、と私たちは決めています。

この4つは、数字にする前でも、組織を見る問いに置き換えて使えます。

  • この半年、外から持ち込まれた問いや、普段とは違う立場からの指摘は、何度あったか

  • 新しく始まった取り組みのうち、現場の社員が起案したものは、どれくらいあるか

  • 社員が自分で手を挙げ、主役になって動いた出来事を、いくつ思い出せるか

  • 担当や上司が入れ替わったあとも、同じ決め方や確かめ方が使われているか

言い出した人の名前がいくつも浮かぶなら、問題を口にできる習慣は動いています。一人も浮かばないなら、制度の数とは関係なく、どこかで誰かが黙っているのかもしれません。

挿絵:二人で芽を植え、仲間が集まる温室

まとめ:見つけることと、担うことを分ける

創造性が生まれる組織文化は、アイデアを集める制度だけではできあがりません。答えを歓迎する仕組みの手前に、答えのない問題を歓迎する習慣が要ります。

そのために、見つけること、担うこと、称えることを分けて持つ。違和感を答えのないまま口にできる入口をつくり、担う人は見つけた人とは別に、二人以上で決め、見つけたこと自体を評価する。そうして初めて、気づいた人は次も声に出します。

数日後の朝、チームに担当の割り振りが回ってくる。手順の見直しの項目の横に、名前が二つ並んでいる。一つは言い出した人の名前、もう一つは、一緒に持つと手を挙げた人の名前です。半年後の帰り際、その人はまた、何かを言いかけている。

執筆:杉山 諒(株式会社アマナ/プロジェクトデザイナー・GreatRIVER主宰)

企業のブランディングや新規事業開発、人材育成など幅広いプロジェクトに参画し、プランニング・ファシリテーションを中心に企画・設計に従事。クリエイティブ人材育成プログラムamana Creative Camp、創造性人材循環事業GreatRIVERを主宰。認知科学コーチ。

GreatRIVERは、プロジェクトデザイナーをはじめとする創造性人材がチームで参画し、構想と推進の両面から企業のプロジェクトに内側から伴走するサービスです。まずは停滞しているプロジェクトの見立てからで構いません。