新規事業のコンセプトが一言にならないのは、選び切っていないから

新規事業のコンセプトが一言にならないのは、選び切っていないから

企画書の一枚目に、「コンセプト」と書かれた欄があります。そこに置かれた一文には、誰に向けた事業なのか、何ができるのか、どの業界にも広げられること、将来はほかの事業ともつながっていくことが、すべて入っています。読点は六つ。役員への説明を翌日に控えた夕方、担当者がその一文を声に出して読んでみると、四つ目の読点のあたりで息が足りなくなります。読み終えて耳に残っていたのは、最後の「サービス」という一語だけでした。

新規事業のコンセプトのつくり方で先にするのは、誰の、どの場面を、どう変える事業なのかを選ぶことと、選ばなかった相手や用途を、ひとまず書かないと決めることです。長い一文は、選ぶ前の候補がそのまま並んだ姿です。言葉を整える作業は、選び終えたあとで十分に間に合います。

挿絵:長い紙を読み上げて息が切れる企画担当者

新規事業のコンセプトとは

新規事業のコンセプトとは、誰の、どんな場面を、どう変える事業なのかを一言で示すものです。一言にならないのは表現の問題ではなく、相手と場面を選び切らず、選ばなかったものを捨てていないことから起きます(GreatRIVER編集部)。

キャッチコピーは、コンセプトが決まったあとに顧客に向けて魅力を伝える言葉で、事業計画は、コンセプトを数字と段取りに書き換えたものです。コンセプトはその手前にあって、社内の人が何をつくり、何をつくらないかを決めるときに立ち戻る言葉です。響きの良さより、聞いた人が同じ相手と同じ姿を思い浮かべられるかどうかが、その働きを決めます。この作業を、コンセプトメイキングと呼ぶこともあります。

説明が長くなるのは、選ばなかったものを残しているから

たとえば、ある製造業の会社が、設備点検にまつわる新しい事業を企画しているとします。コンセプトの欄には、こうあります。

「中小の事業者から大手まで、どんな業種でも使える、紙や表計算で管理されている設備点検の記録を一つにまとめ、点検の手間を減らし、点検の抜けにも気づけて、将来は保守部品の手配ともつながる、現場の仕事をまるごと支えるサービス」

「中小の事業者から大手まで」は相手を、「どんな業種でも」はどの現場の話かを選んでいません。「まとめ」「減らし」「気づけて」は三つの効き目を並べていて、どれが芯なのかが分からない。「将来は」の句は、いまの事業と次の事業を同じ文に入れています。そして「まるごと支える」は、選ばなかったものを全部引き受けると言っています。

この一文も、はじめはもっと短かったのです。大手にも売れたほうが市場は大きい、ほかの業種でも使えれば営業の先が増える、部品の手配までつながれば収益が積み上がる。どれももっともで、退ける理由が見つからないから足す。一文は、検討に加わった人たちへの心配りを、一つずつ抱えて長くなっていきます。

けれど、誰のどんな困りごとに賭けるのかが分からなければ、投資を決める側は決めようがありません。相手も用途も広く書かれたコンセプトは、決める人にとって、選ぶ仕事をもう一度手渡されるのに近いものです。

新規事業のコンセプトのつくり方:長い一文を、四回削る

さきほどの一文を、四回に分けて削っていきます。順番は、相手、場面、変化、しないこと。前の段で選んだものが、次の段で何を落とすかを決めていきます。

図:長い一文から、一言へ(GreatRIVER作成)

誰のための事業か、一つの顔を選ぶ

ここで選ぶのは、市場の区分ではなく、一人の顔です。たとえば、いくつもの設備を一人で受け持っている、小さな工場の保全担当者。大手の工場には保全を専門に担う部署や記録の仕組みがすでにあることも考えられ、そうであれば困りごとの中身は別のものになります。両方に向けて書くと、どちらにも半分ずつしか届かない。一つの顔を選ぶと、その人の一日が具体的に見えてきます。

「一人でいくつもの設備を受け持つ小さな工場の保全担当者のための、点検の記録を一つにまとめ、手間を減らし、抜けにも気づけて、将来は保守部品の手配ともつながるサービス」

読点は四つになりました。

その人の、どの場面を変えるかを選ぶ

朝の巡回、点検の最中、事務所に戻ったあと、月末の報告、監査の前に過去の記録を探す日。このうち、たとえば、事務所に戻って手書きのメモを表計算に打ち直している夕方を選びます。毎日あり、本人がいちばん「本来の仕事ではない」と感じている時間だからです。巡回の場面の話である「抜けにも気づける」は、ここで外れます。この段では、机の上で想像するより、その人の夕方を実際に見に行くほうが、選ぶ手がかりが多く得られます。

「小さな工場の保全担当者が、点検を終えて事務所で記録を打ち直す時間に向けた、記録を一つにまとめて手間を減らし、将来は部品の手配ともつながるサービス」

読点は三つです。

その場面の前と後で、何が変わるかを言う

「一つにまとめる」「手間を減らす」は手段の名前で、場面がどう変わるかはまだ書かれていません。前は、手書きのメモを事務所で打ち直す。後は、点検を終えたその場で記録も終わっている。「将来は部品の手配とも」は、選んだ夕方の前にも後にも出てこないので、四回目の欄に回します。

「小さな工場の保全担当者が、点検を終えたその場で記録まで終えられ、事務所で打ち直す時間がなくなるサービス」

読点は二つになりました。変化の言葉で書くと、聞いた人は機能の一覧ではなく、ある工場の夕方の様子を思い浮かべます。

しないことを決める

文から外しただけでは、次の検討の場でまた戻ってきます。大手にも売れるのでは、という声は、一度退けたくらいでは消えません。そこで、外したものに名前をつけて、コンセプトの横に「しないこと」として書いておきます。

  • 大手の工場の、保全専門の部署に向けた機能はつくらない

  • 製造業の工場以外には、いまは広げない

  • 保守部品の手配は、最初の事業では扱わない

  • 点検の抜けを知らせる仕組みは、後の段に回す

しないことが別の欄で引き受けられると、一文はそれらを抱えておく必要がなくなります。

「小さな工場の保全担当者が、点検をその場で終えられるようにする」

読点は一つだけ残りました。一言とは、文字の数を一つにすることではなく、聞いた人の頭に一つの顔と一つの場面が浮かぶことです。役員が小さな工場の夕方を思い浮かべられれば、次の会話は、その工場が何社あるか、その時間がいくらに相当するかという、決めるための話に進めます。

一言に絞るのは、可能性を狭めることか

大手を外した事業は小さく見える、広く書いたほうが大きな事業に見えるのではないか。そんな心配の声も出てきます。

ただ、外したものは「しないこと」の欄に置いてあるので、最初の相手と夕方で手応えが出たあと、次の段で選び直せます。そのときも、また一つの顔と一つの場面から始めることになります。広げる順番が見えている企画は、すべてを一文に詰めた企画より、事業の大きさが伝わりやすいことがあります。一言にする作業は、その会社が新しい事業を何によって大きくしようとしているのかを、一度見直す作業でもあります。

私たちGreatRIVERは、新規事業の支援で、コンセプトメイキングを、未来の探索、リサーチ、マイルストーン設計、推進までと切り離さずに扱っています。一言は企画書の一枚目で完成するものではなく、リサーチで場面を見に行ったあとや、マイルストーンを引く段で、何度か選び直されるものだと見ているからです。

挿絵:小さな一枚を掲げ、外したものは棚にしまう

まとめ:一つの顔と、一つの場面から

新規事業のコンセプトが長くなるのは、検討の中で寄せられた気がかりに応えようとして、選ぶことを先送りしてきたからです。読点の一つひとつに、まだ選んでいない相手や場面や用途が残っています。

つくり方は、相手、場面、変化、しないことの順に、長い一文を四回削ることです。外したものは、次の段で選び直せる場所に置いておけます。

六つあった読点は、一つになりました。コンセプトの一言は、捨てたものの数だけ短くなります。

執筆:杉山 諒(株式会社アマナ/プロジェクトデザイナー・GreatRIVER主宰)

企業のブランディングや新規事業開発、人材育成など幅広いプロジェクトに参画し、プランニング・ファシリテーションを中心に企画・設計に従事。クリエイティブ人材育成プログラムamana Creative Camp、創造性人材循環事業GreatRIVERを主宰。認知科学コーチ。

GreatRIVERは、プロジェクトデザイナーをはじめとする創造性人材がチームで参画し、構想と推進の両面から企業のプロジェクトに内側から伴走するサービスです。まずは停滞しているプロジェクトの見立てからで構いません。