パーパスが活きる会社は、掲げた一文を判断の問いに置き換えている

パーパスが活きる会社は、掲げた一文を判断の問いに置き換えている

中期経営計画の説明資料を、はじめから順にめくっていきます。冒頭には、数年前に定めたパーパスが大きく掲げられています。続くページには、売上と利益の目標、重点領域、投資の配分、組織の再編、採用の計画。どれもよく練られた内容です。ただ、最後のページまでたどっても、冒頭のパーパスはもう一度も出てきません。投資の理由にも、重点領域を選んだ根拠にも、その言葉は引かれていないのです。

パーパスが形骸化する会社と活きる会社の違いは、迷った日に分かります。二つの選択肢のどちらも正しく見えて決めきれない日に、掲げた言葉が判断の問いとして引かれていれば、パーパスは働いています。会議で一度も引かれないまま物事が決まっていくなら、どれほど練られた言葉も、掲げられたまま役目を持たなくなります。

挿絵:壁高くの額を見ずに会議で迷う役員たち

パーパスが形骸化するのは、なぜか

パーパスが形骸化するのは、迷った日に、判断の問いとして開かれないからです。

パーパスの形骸化とは、掲げた言葉が、迷ったときの判断に使われなくなった状態のことです。策定の出来ではなく、事業の判断の場で開かれたかどうかで見分けられます(GreatRIVER編集部)。

実際には、パーパスは消えていません。ウェブサイトにも説明資料の冒頭にも載り、趣旨を答えられる社員も少なくないでしょう。それでも形骸化していると感じるのは、言葉が残っているのに、使われている気配がないからです。

迷った日とは、たとえば、伸びている事業と、まだ小さいけれど自社らしい事業の、どちらに人を寄せるかを決める日です。大きな取引先の要望をどこまで受けるか、目指す姿から少し離れる仕事を引き受けるか。どちらを選んでも説明がつくからこそ、決めきれません。

そうした日の会議で開かれるのは、たいてい予算の表と、過去の実績と、競合の動きです。パーパスはこの席に呼ばれません。目指す姿を宣言する文としては書かれていても、AとBのどちらを選ぶかを問う文としては書かれていないことが多く、宣言は選択肢を前にすると、どちらにも当てはまって見えてしまうからです。一度呼ばれなかった言葉は、開かずに決めた判断が前例になるぶん、次の会議でも呼ばれにくくなります。

掲げること自体に意味がないわけではありません。経営陣が存在理由を話し合ったこと、社外に何を大切にする会社かを示せることは、策定の確かな成果です。形骸化とは、その成果が判断の場まで降りないまま、手前に留まっている状態のことです。

社内に伝える施策を増やせば、パーパスは活きるのか

社内に伝える施策は欠かせませんが、それだけではパーパスは判断の場まで降りていきません。

社内報の特集、全社集会、研修、オフィスの壁に掲げる言葉。まず知られなければ誰も引けないので、どれも意味のある取り組みです。ただ、伝える施策が届けるのは「知っている」という段までです。研修で趣旨を理解した人が、次の判断の会議でその言葉を口にするかどうかは、研修の中では決まりません。

施策の量を増やしても、この段の違いは埋まりにくく、何度も目にするうちに言葉が壁の飾りのように感じられてくることさえあります。伝える施策は言葉を広く知らせ、判断に使う仕組みは決めきれない会議に言葉を呼び出す。前者は後者の土台になりますが、代わりにはなりません。

パーパスが活きている会社では、何が起きているのか

パーパスが活きている会社では、掲げた一文が、迷ったときに引ける問い一つに置き換わっています。

言葉がとりわけ見事だとは限りません。違うのは使われ方です。たとえば「この選択は、私たちが良くしたいものに近づくか」「この仕事を受けることで、私たちが抗っているものに手を貸していないか」。問いは答えを教えてくれませんが、予算の表と実績の横に、もう一つの比べる基準を置くことはできます。

図:パーパスは、どこまで降りているか(GreatRIVER作成)

図は、パーパスがどこまで降りているかを一本の軸に置いたものです。左の「資料の冒頭に載せる」「社内報や研修で伝える」は、通らなければ右へ進めない段です。パーパスが働きはじめるのは、優先順位を決めるときに引かれるところからで、右の端は、選ばない側の理由にまで言葉が使われている状態です。

問いの文なら、経営陣だけでなく、課長の会議でも新しい取引の相談でも、同じように開くことができます。宣言の文は、それを書いた人の解釈がなければ使いにくいものです。

私たちGreatRIVERも、自分たちの活動について同じ置き換えをしています。判断のたびに引く問いを一つだけ置き、その裏側に、目指す姿として「澱まない組織」を置きました。「問うのは、ただひとつ。『澱んでいないか』」。問いと目指す姿は、同じものの表と裏です。ある組織との関わりを続けるか、関わり方を変えるかを考えるときも、立ち返るのはこの問いです。

策定後のパーパスを、判断基準として使うには何から始めればよいか

策定後のパーパスを判断基準にするには、何を良くしたいのかと、何に抗うのかを、判断の場で引ける言葉にするところから始めます。

まず、掲げた一文から、良くしたいものを抜き出します。そのうえで、この半年ほどで決めきれなかった判断を思い出し、その言葉を引いていたら結論は変わっただろうかと話し合う。どの判断でも変わらないなら、言葉が広すぎて、選択肢を分ける力を持っていない可能性があります。

抗うものは、パーパスの文に書かれていないことが多い部分です。陥りたくない状態、業界で当たり前でも受け入れたくないこと。それがはっきりすると、片方を選ぶ理由がもう一段はっきりします。良くしたいものと抗うものは、一つの問いの両面です。

次に、投資の判断や重点領域の見直しなど、決めきれなさが生まれやすい会議を挙げ、そこで誰が問いを出すのかを決めておく。その場の空気に押されて黙る日は誰にでもあるので、一人より何人かで持つほうが続きます。そして判断の理由を書くときに、パーパスのどの言葉を引いて選んだのかを一行添えます。

図:引かれるほど、言葉は具体になる(GreatRIVER作成)

会議で開かれ、判断の理由として書かれるうちに、「あの事業を選んだのは、この言葉があったからだ」という例が積み重なっていきます。次に判断を迫られた人は、過去の判断を手がかりに考えられる。言葉を磨き直すより、使われた例を重ねるほうが、パーパスの意味は具体になっていきます。はじめは会議が長くなることもありますが、例が増えるにつれ、同じ論点で何度も行き来することは減っていきます。

パーパスの形骸化は、どう見分けられるか

パーパスの形骸化は、策定の出来ではなく、迷った日に開かれたかどうかで見分けられます。

直近の半年から一年の大きな判断を並べ、それぞれの理由にパーパスの言葉が出てきたかを見ます。一度も出てこないのか、少しでも出てくるのか。その違いが、何より大きな分かれ目です。

業績の数字からは見分けられません。事業が順調なときほど、パーパスを開かなくても決められてしまうので、形骸化に気づきにくくなります。反対に、一字一句を覚えている人が少なくても、判断で言葉が引かれていれば、形骸化とは言い切れません。また、掲げた言葉と足元との距離が遠いこと自体も形骸化ではありません。パーパスは本来、いまの足元より先にあるものを書く言葉です。

見直しや再策定を考える前に、いまの言葉を次の判断の会議で一度引いてみる。使えないのが言葉が広すぎるせいなのか、引く会議と問いを出す人が決まっていないせいなのかで、手の打ち方が変わるからです。後者であれば、言葉を新しくしても同じことが起きます。

あの説明資料の、投資の理由を書いたページ。重点領域を選んだ根拠のページ。そこに、冒頭の一文を一度でも引けたかどうか。引けなかったところが、パーパスが開かれなかったところです。

挿絵:額を机に置き、囲んで道を決める役員たち

まとめ:パーパスは、本文のどこに出てくるか

形骸化する会社と活きる会社の分かれ目は、言葉の出来や伝える施策の量より先の、決めきれない日の会議にあります。そこで誰かが、掲げた言葉を問いとして口にしたかどうか。伝える施策で言葉を知らせ、判断の問いに置き換えて会議で引き、選んだ理由として書き添える。引かれるほど、言葉は具体になっていきます。

次の中期経営計画の説明資料で、パーパスは冒頭のほかに、本文の何ページ目に出てくるでしょうか。

執筆:杉山 諒(株式会社アマナ/プロジェクトデザイナー・GreatRIVER主宰)

企業のブランディングや新規事業開発、人材育成など幅広いプロジェクトに参画し、プランニング・ファシリテーションを中心に企画・設計に従事。クリエイティブ人材育成プログラムamana Creative Camp、創造性人材循環事業GreatRIVERを主宰。認知科学コーチ。

GreatRIVERは、プロジェクトデザイナーをはじめとする創造性人材がチームで参画し、構想と推進の両面から企業のプロジェクトに内側から伴走するサービスです。まずは停滞しているプロジェクトの見立てからで構いません。