生成AI時代のブランドガイドラインに足りないのは、規則の数より理由

生成AI時代のブランドガイドラインに足りないのは、規則の数より理由

チェックリストの最後の項目に、ブランド担当が○をつけます。手元にあるのは、生成AIでつくったバナーの案です。その上の項目にも、すでに○が並んでいます。ロゴの余白は足りている。色は指定の青と白。書体も指定どおりで、使わないと決めた言い回しも入っていない。これで、すべての項目が埋まりました。それでも、案を見た誰ひとり、これをうちの広告だとは言いません。どこかで見たことのある、よくできたバナーが一つ、そこにあるだけです。

生成AI時代のブランドガイドラインに足りないのは、規則の数より、規則の奥にある理由です。色や書体や禁止事項に加えて、なぜそう判断するのか、どの案を採り、どの案を採らなかったのかを書いておく。そうすると、人が読んでも生成AIに渡しても、同じ向きの判断が返ってきやすくなります。作り方は、ゼロから書き直すことではなく、いまある規則に、例と理由を順に足していく手順として考えられます。

挿絵:同じようなバナーが並び、首をかしげる人たち

生成AI時代のブランドガイドラインとは

ブランドガイドラインは、これまで主に人が読むものでした。書かれていないところは、過去の制作物や担当者への相談で補ってきました。生成AIが制作に入ると、指示文にガイドラインの一部を貼りつけて案をつくらせたり、営業や人事の担当者が自分で告知をつくったりと、読み手とつくられる量が増え、相談で補ってきた部分が届かなくなります。

生成AI時代のブランドガイドラインとは、色・書体・禁止事項の規則に加えて、なぜそう判断するのかという理由と、採った例・採らなかった例を書き、人にもAIにも同じ判断を渡せるようにした文書です(GreatRIVER編集部)。

規則を細かくすることは、判断を渡すことと同じではありません。どれだけ項目を増やしても、書かれていない状況は必ず出てきます。そのとき、読み手が自分で選べるだけの手がかりがガイドラインの中にあるかどうか。問われているのは、文書の厚さより、その手がかりのほうです。

生成AIの制作物で、ブランドの統一が崩れる理由

すべての項目に○がついたのに、自社のものに見えない。チェックリストが確かめているのは、書かれた規則に従っているかどうかだけだからです。

ブランドらしさは、規則と規則のあいだにあることが少なくありません。指定の青を画面のどこにどれだけ置くか。人物の写真で、カメラを見ている表情を選ぶか、手元の作業を写すか。こうした判断は、長く担当してきた人の頭の中や、過去の制作物の選び方の中にあります。人のデザイナーは、それを過去の事例や担当者の赤字から、少しずつ受け取ってきました。

生成AIは、書かれた規則には沿いやすく、書かれていない判断は、世の中でよく見かける構図や言い回しで埋めがちです。どれも規則からは外れていないので、チェックリストを素通りします。問うべきは、渡したものの中に、その会社が何を選び、何を選ばないのかの手がかりが入っていたかどうかです。

規則で書くか、理由で書くか

ロゴの扱いや色の値、書体の指定は、形をそろえるためにあり、ガイドラインの土台として変わらず必要です。ただ、規則が教えてくれるのは「何をするか」までです。たとえば「コーポレートカラーの青は、画面の三割ほどにとどめる」という規則に理由が書かれていなければ、読み手にできるのは三割を超えないようにすることだけです。そこに「青を広く敷くと冷たい印象が強くなるので、人の表情や手元の写真を主役にし、青はそれを支える側に回す」と添えてあれば、規則のない場面でも、何を主役にするかを読み手が選べます。

図:規則で書く、理由で書く(GreatRIVER作成)

難しいのは、形容詞で書かれたトーンです。「上質に」「親しみやすく」「誠実に」。人であれば、過去の制作物や日々の会話から、その会社にとっての「上質」を少しずつ覚えていきます。生成AIに同じ言葉を渡すと、返ってくるのは、世の中で広く上質とされている表現になりがちです。形容詞は、意味を読み手に預ける書き方です。預ける相手が増えるほど、意味は散っていきます。

なぜその色なのかを書けば、判断が読み手に移ります。採った例と採らなかった例を並べれば、言葉では言い切れない境目が見えてきます。迷いやすい二択の選び方を書いておけば、人にも生成AIにも、同じ向きの判断を渡しやすくなります。

ブランドガイドラインの作り方:規則に理由を足す

規則はそのまま土台にして、その上に、例と理由と、最後に見る人を重ねていきます。

図:ガイドラインに足していく段(GreatRIVER作成)

トンマナの形容詞を、判断の例に置き換える

ガイドラインから「上質」「親しみやすい」といった形容詞を抜き出し、過去の制作物の中から採った例と採らなかった例を組にして並べます。「親しみやすい」であれば、採った例として、社員が自分の仕事を説明している写真。採らなかった例として、明るい色のキャラクターのイラスト。その組の横に「親しみは、かわいらしさではなく、働く人の顔が見えることで出す」と一行添えます。

採った例だけを並べると、読み手はその例に似せることしかできません。採らなかった例と並べると、二つのあいだのどこに境目があるのかが見えてきます。例を集める作業は、ブランドを長く担当してきた人の判断を、ほかの人も読める言葉にする作業でもあります。

迷いやすい二択に、選び方と理由を書く

写真にするか、イラストにするか。見出しで言い切るか、問いかけで結ぶか。どちらも間違いではないからこそ、制作のたびに同じ議論がくり返されます。こうした二択について、「AとBで迷ったときは、Aを選ぶ。理由は〜」と書き、Bを選ぶのはどんなときかもあわせて書く。生成AIは、二択のどちらにも寄れる場面で、より多く見かけるほうを選びがちです。だからこそ、その会社がどちらを選ぶのかが、らしさの手がかりになります。過去のレビューで差し戻しになった理由が、よい材料になります。

最後に人が見る場所を決める

理由と例を書き足しても、書かれたものを読んで選ぶ人がいて、はじめて判断が制作物に表れます。案の数を広げる、規則に外れていないかを照らし合わせるといった作業は、生成AIが速くしてくれる部分です。並んだ案のどれを採るかを理由に照らして選び、ガイドラインにまだない判断を言葉にすることは、人が受け持つ部分です。

見る場所は、一か所に集めないほうが続きます。社外に出る表現はブランドの担当者が公開の前に見て、社内向けのものはつくった本人が理由に照らして確かめる。すべてを一人が最後に見る体制では、見ることが通過の手続きになりがちです。見る人に求められるのは、採らなかった案について、どの理由に照らして違うのかを一言添えることです。その一言が、次にガイドラインへ書き足す材料になります。

ガイドラインを育てる

ブランドガイドラインは、発行した日がいちばん新しい状態になりやすい文書です。理由と例で書いたガイドラインは、ここで違う動き方をします。見た人が添えた一言や、迷いやすい二択に新しく加わった選択肢を時期を決めて集め、例と理由の段に書き足していく。もう誰も理由を説明できない規則があれば、見直す候補にします。材料を出すのは制作に関わる全員、書き足すのはブランドの担当者、と持ち分を分けておくと、ガイドラインは使われるほど厚みを増していきます。

私たちGreatRIVERは、すでにある問いに答える仕事はAIがより速く担うようになるなかで、残るのは、問いを立てて、意味を決め、実装する力だと考えています。案をつくる手間が軽くなるほど、どの案を選ぶかの理由が、そのブランドにしか書けないものとして手元に積み上がっていきます。

挿絵:採った例と採らなかった例を壁に並べて話す担当者

まとめ:規則に、理由を書き添える

規則だけで書いたガイドラインを生成AIに渡すと、見た目はそろい、書かれていないところはありがちな表現で埋まりがちです。冒頭のバナーに○が並んだのに、誰も自社のものだと言わなかったのは、そのためでした。

規則はそのまま土台に置き、その上に、採った例と採らなかった例、なぜそう判断するのかという理由、そして最後に見る人を足していく。そうして書かれたガイドラインは、読み手が人でも生成AIでも、書かれていない場面での手がかりになります。

規則は形をそろえ、理由はらしさを渡す。

執筆:杉山 諒(株式会社アマナ/プロジェクトデザイナー・GreatRIVER主宰)

企業のブランディングや新規事業開発、人材育成など幅広いプロジェクトに参画し、プランニング・ファシリテーションを中心に企画・設計に従事。クリエイティブ人材育成プログラムamana Creative Camp、創造性人材循環事業GreatRIVERを主宰。認知科学コーチ。

GreatRIVERは、プロジェクトデザイナーをはじめとする創造性人材がチームで参画し、構想と推進の両面から企業のプロジェクトに内側から伴走するサービスです。まずは停滞しているプロジェクトの見立てからで構いません。