ロゴやデザインが社内で決まらないのは、基準が案より後に生まれるから

ロゴやデザインが社内で決まらないのは、基準が案より後に生まれるから

共有フォルダに、ロゴのファイルが縦に並んでいます。名前の末尾は「_最終」から始まり、「_最終_修正」「_最終_修正2」と少しずつ伸びて、七つ目でようやく止まりました。承認が下りたのは、その七つ目です。ところが七つのファイルを横に並べてみると、最後のロゴは二つ目とよく似ています。この数か月で何が変わったのか、担当者にもうまく説明できません。

ロゴやデザインが社内で決まらないのは、何を良しとするかという基準が、案より先に共有されていないからです。基準のないまま案を見せると、決裁者は案を前にしてはじめて、自分が何を求めていたかを言葉にします。その言葉が修正の指示になり、次の案ではまた別の観点が言葉になる。デザインの決裁が何周も続くのは、案が出るたびに、見る観点が一つずつ入れ替わっていくからです。

挿絵:螺旋の道に並ぶ、似たような案の板

ロゴやデザインが社内で決まらない理由

デザインの社内承認が進まないとき、よく挙がる説明は三つあります。決裁者の好みが人によって違う。決裁者が忙しく、見るたびに言うことが変わる。つくる側の提案が、意図をつかみきれていない。どれも実感としてはよく分かりますが、修正の指示を並べ直してみると、別の像が見えてきます。

ロゴやデザインが社内で決まらないのは、何を良しとするかが案より先に共有されず、決裁者が案を見た瞬間に基準をつくるため、案を出すたびに評価の基準が変わってしまうからです(GreatRIVER編集部)。

原因は人ではなく、順番にあります。案を見るたびに新しい観点が一つ生まれ、前の観点は脇に置かれたまま、次の案がつくられている。観点が積み上がらずに入れ替わるので、周回を重ねても、決める地点に近づかないのです。

七つ目から、一つ目へさかのぼる

冒頭のフォルダを、最後のファイルから順にさかのぼってみます。それぞれに、前の打ち合わせで出た修正の指示がメモとして添えられていたとしましょう。

七つ目は「二つ目の方向に近づけてほしい」。六つ目は「もう少し落ち着いた色に」。五つ目は「若い世代から見て、古く見えないか」。四つ目は「同業の他社と並べたとき、埋もれないか」。三つ目は「創業からの歴史が感じられない」。二つ目は「もう少し親しみやすく」。そして三案を並べた最初の打ち合わせのメモには、「悪くないが、どれも何か違う」とだけ書かれています。

どの指示も、ロゴを決めるときに考えておきたい観点です。気になるのは、指示のたびに観点が入れ替わっていることです。三つ目で歴史を求められて重みを足すと、四つ目では埋もれないかを問われ、五つ目では古く見えないかが気になり始める。前の修正で足したものが、次の観点では減点の理由になります。デザイナーが誠実に応えるほど、別の観点から見たときのずれが目立っていきました。

七つ目が二つ目に似ているのは、観点がひととおり出そろったところで、最初に口にされた親しみやすさが、もう一度浮かび上がったからかもしれません。

最初の打ち合わせで三案が並んだとき、そこには案を比べるための物差しがありませんでした。「何か違う」は、物差しがないまま比べたときに出てくる、いちばん素直な言葉です。その後の六つの指示は、本来なら一つ目の前に並んでいてよかった観点の一覧でもありました。基準はいつも、案のあとからやってきていたのです。

決裁者の一言は、気まぐれではない

なぜ決裁者は、案を見る前に基準を言えないのでしょうか。

一つには、デザインの良し悪しの多くが、目にしたときの手応えとして感じ取られるからです。「親しみやすいロゴがいい」とは言えても、どの程度の親しみやすさか、何と引き換えなら優先するのかは、具体的なものを前にしないと言葉になりにくい。もう一つには、決裁者が営業の現場、長く付き合ってきた取引先、採用の説明会といった周りの声を思い浮かべながら見ていることがあります。重みのある案を見れば若い世代の目が気になり、軽やかな案を見れば古くからの取引先の顔が浮かぶ。

決裁者の中にはもともと複数の気がかりがあって、どれが表に出るかを、目の前の案が決めているのです。ずれが生まれるのは、その一言の扱われ方です。打ち合わせで出た言葉は「修正の指示」として伝わりますが、どの観点から出たのか、ほかの観点とどちらを先にするのかは、たいてい書き留められません。決まらなかったのは案ではなく、物差しのほうでした。

案の前に、何を良しとするかを置く

修正の周回を短くするには、一つ目の案をつくる前に、何を良しとするかを言葉にして、決裁者と同じものを見ておくことです。順番を入れ替えるだけで、同じ観点が、修正の指示ではなく、案を比べる材料として働き始めます。

  • 誰に向けたものか。最初に届けたい相手と、その次に気にかける相手

  • 何を伝えたいか。見た人に、ひとことで何を感じてほしいか

  • 何を変えないか。創業からの由来、受け継いできた色や文字など、手放さないもの

  • 何と並ぶか。同業の他社、自社のほかのブランド、使われる場面

  • 観点どうしがぶつかったとき、どれを先にするか

いちばん効いてくるのは最後の一つです。親しみやすさと歴史の重み、目立つことと落ち着きのように、観点には互いに引っ張り合うものがあります。順番を先に決めておけば、「もう少し落ち着いた色に」と言われたとき、先にすると決めた話か、後回しにしてよい話かで、扱いを変えられます。

図:案が先か、基準が先か(GreatRIVER作成)

それでも、案を見る前の決裁者からは十分な言葉が出てこないことがあります。その場合は、方向の違う参考の画像やラフな下書きを並べ、どれを採るかではなく、なぜ惹かれ、なぜ外すのかを聞く時間を最初に設けます。その反応を先にするものから順に並べ直せば、一つ目の案の前に置くものになります。具体的なものに触れて気づくという決裁者の性質を、決める段階ではなく、拠り所をつくる段階で使うということです。

デザインの社内承認と決裁を進めるには、決める人とつくる人を同じ席に

多くの会社で、デザインの承認はいくつかの段を経て進みます。デザイナーの案を担当者が受け取り、上長に見せ、決裁者の会議にかける。そこで出た一言は同じ段を逆にたどり、届くころには「親しみやすく」という結論だけになって、なぜそう感じたのかは抜け落ちています。

私たちGreatRIVERは、良いプロジェクトとは、決める人がその場にいて、つくる人も同じ席にいる状態だと見ています。企業のチームに加わるときも、意思決定の場に同席し、選ぶための材料と基準を用意すること、何を良しとするかから議論に加わることを、仕事の一つにしています。

毎回の打ち合わせに、決裁者が出る必要はありません。基準を探る最初の打ち合わせか、方向を絞る前のラフの段階に、一度だけ同席する。その場にいれば「親しみと重みなら、どちらを先にしますか」と一言確かめられ、指示として受け取るはずだった言葉が、何を先にするかという順番に置き換わります。

出てきた観点を、その場で基準の紙に書き足していくと、決裁者は後で別の観点を持ち出すとき、それが紙を書き換えることだと自分で気づけます。紙は、決裁者が不在の回でも、担当者が「前回の紙に照らすと」と話を進める拠り所になります。修正の周回がなくなるわけではありません。ただ、一回ごとの修正が、物差しを入れ替えるためではなく、同じ物差しの上で目盛りを合わせるためのものになります。

挿絵:短い道の先で、決める人とつくる人が同じ卓に

まとめ:一つ目の案より先に置くもの

ロゴやデザインが社内で決まらないのは、決裁者の好みや気まぐれ、つくる側の力量の問題である前に、順番の問題です。何を良しとするかが案より先に置かれていないと、案が出るたびに新しい観点が生まれ、修正のたびに見るところが入れ替わります。

周回を短くするには、一つ目の案をつくる前に、誰に向けて、何を伝え、何を変えず、何と並ぶのか、そしてそれらがぶつかったときにどれを先にするのかを言葉にしておく。言葉にしきれない部分は、案を、基準を探るための道具として最初に使う。そして途中で一度、決める人とつくる人が同じ席につき、決裁者の反応を観点として書き留める。

次にロゴのフォルダをつくるとき、いちばん上には「_初稿」より先に、何を良しとするかを書いた一枚を置く。その一枚の下に並ぶファイルの名前は、「_最終」の一語で止まるかもしれません。

執筆:杉山 諒(株式会社アマナ/プロジェクトデザイナー・GreatRIVER主宰)

企業のブランディングや新規事業開発、人材育成など幅広いプロジェクトに参画し、プランニング・ファシリテーションを中心に企画・設計に従事。クリエイティブ人材育成プログラムamana Creative Camp、創造性人材循環事業GreatRIVERを主宰。認知科学コーチ。

GreatRIVERは、プロジェクトデザイナーをはじめとする創造性人材がチームで参画し、構想と推進の両面から企業のプロジェクトに内側から伴走するサービスです。まずは停滞しているプロジェクトの見立てからで構いません。