生成AIのPoCが止まるのは、終わり方を決めずに始めるから

生成AIのPoCが止まるのは、終わり方を決めずに始めるから

検証の報告会は、たいてい和やかに進みます。生成AIで書いた広告コピーの案、記事の下書き、画像の素案が画面に並び、手作業より早く仕上がった例もいくつか紹介される。参加した人たちはうなずき、質問も出る。そして最後のページ。「今後の展開」の欄には、「引き続き検討」とだけ書かれています。

手応えはあった。それでもマーケティング部門の生成AI導入が進まず、PoC(概念実証)のまま止まるのは、検証を始める前に、続けるか、やめるか、形を変えるかを決める「終わり方」を置いていなかったからです。終わり方のない検証は、結果が良くても悪くても、次に何をするかを決められません。

挿絵:桟橋につながれたまま出ていかない試作の小舟

生成AIの導入が進まない、PoC止まりになる理由

報告会の中身を見ると、検証そのものはうまくいっていることもあります。止まっている理由は、検証の出来ではなく、検証を閉じる手立てがないところにあります。報告会で語られるのは「AIで何ができたか」で、「だから、どうするか」を誰がどの基準で決めるのかは、始める時点で決まっていない。それなら最後のページに書ける言葉は「引き続き検討」しかなく、それはその時点でいちばん誠実な書き方です。現場の担当者はツールを試し、推進の担当者は結果をまとめ、IT部門は扱う情報の安全を確かめた。それぞれが持ち分を果たしたあとに、決める日だけが、どこにも書かれていない。

PoC止まりとは、概念実証(PoC)で一定の手応えを得ながら、続けるか、やめるか、形を変えるかが決まらないまま、本番の業務に組み込まれずに止まっている状態です(GreatRIVER編集部)。

とくに決まりにくいのが、やめるという選択です。やめる基準が始める前に書かれていないと、検証を始めた人の判断を否定するように聞こえて言い出しにくく、効果がはっきりしないときほど「もう少し試してみよう」に寄っていきます。続ける理由も、やめる理由も見当たらない検証は、こうして長くなっていきます。

マーケティング部門の生成AI導入で、検証が終わらないとき

マーケティングは、広告のコピー、メールマガジンの文面、SNSの投稿文、画像の素案など、生成AIを試す入口がとりわけ多い領域です。試しやすさは強みですが、小さな成功例がいくらでも集まる一方で、コピーや画像の良し悪しは見る人によって評価が分かれやすく、「業務で使えるかどうか」の答えが一つに定まりません。検証が長引きやすいのは、熱意が足りないからではなく、この組み合わせのためです。

もう一つ、検証で確かめているものが手前の層に留まりやすいという事情があります。PoCで確かめているものを、表に近い順に重ねてみます。

図:PoCで確かめているもの(GreatRIVER作成)

「AIで何ができるか」はツールの説明からも見当がつき、「自部門の業務で使えるか」は試せば手応えが得られる。報告会で語られるのは、たいていここまでです。その奥に、「誰のどの判断が変わるか」があります。案出しを任せたとき、案を選ぶ人の判断は変わるのか。ブランドの言葉づかいを確かめる工程は誰の手元に置くのか。社外に出る前に最後に見るのは誰か。成果物の多くが社外の目に触れるマーケティング部門では、この問いは避けて通れません。業務に組み込むとは、この層が実際に変わることです。いちばん奥の「続けるか、やめるか」は、この三段目が見えて初めて決められます。

PoC止まりを防ぐには、終わり方から逆算する

終わり方を置くとは、検証の最後の日から逆にたどり、始める前に決めておくことを並べる作業です。何を試すかを先に決めるのではなく、どう終わるかを先に決める。試したいことが次々に出てくる時期に終わりの景色まで書くのは、遠回りに見えるかもしれません。けれど検証を閉じる手立ては、始めてから足すのが難しい。結果が出はじめると、基準のほうが結果に合わせて動いてしまうからです。

まず、最後の日に選ぶ三つの終わりを書きます。続けるなら、どの業務のどの工程に組み込まれている状態を指すのか。やめるなら、どうなっていたらやめるのか。形を変えるなら、どこを変えてもう一度試すのか。とくに、やめるの欄を空けないことです。やめる基準が書いてあれば、効果が薄くても想定していた終わり方の一つになり、続けるという判断にも重みが生まれます。

次に、決める人と決める日です。推進の担当者か、部門の責任者か、その上の役員か。報告会の場で決めるのか、別の会議で決めるのか。ここが空いていると、結果がどれほど良くても最後のページは「引き続き検討」に戻ります。決める人が同じ部屋にいて、その日に選ぶと分かっていれば、資料も選ぶための材料として組み立てられます。決める人が途中で一度だけ様子を見ておくと、決める日に初めて聞く話も減ります。検証の期間は、長さから先に決めるのではなく、この決める日から逆に決まります。

そして、決める日に見るもの。作業時間の短縮や案の数は測りやすくても、それだけでは続ける理由にもやめる理由にもなりにくい。見るのは、誰のどの判断がどう変わったかです。案を選ぶ人の迷いが減ったのか、かえって確かめる手間が増えたのか。この問いを基準として始める前に書いておけば、最後のページに書く言葉は三つのうちのどれかになります。

私たち自身も、「試験導入と書いたものは、やめる前提で始める」ことを原則にしています。うまくいかなければやめ、結果は正直に記録する。やめる前提とは、やめるときの決め方を始める前から持っておくことで、そうすれば、やめるという結論も、検証が答えを出した証として扱えます。

生成AIを本番の業務に組み込むには

続けると決めたあとの組み込みとは、使う人を増やすことではなく、業務の手順と判断する人の手元を変えることです。下書きを誰がつくり、誰が選び、誰が最後に確かめるのか。検証の三段目で見えた変化を、日々の手順として書き直します。

形を変えるという終わり方も、前に進む選択です。対象を一つの業務に絞り直す、使う場面を社内向けの資料づくりに移す。範囲を変えてもう一度試すと決めたなら、止まっている状態ではありません。やめると決めたときは、どの基準に届かず、どこまでは手応えがあったのかを書き残しておく。道具も社内の状況も変わるので、次に検証を始めるとき、同じ問いを一から立て直さずに済みます。

検証を外部の専門家や開発会社と進めるのは合理的なやり方です。技術の見極めやAIエージェントの開発は、専門の力を借りるほうが確かで速い。そのときも、終わりの三つと決める日を双方が同じ形で持っておくと、報告会は報告で終わらず、選ぶ場になります。GreatRIVERでも、提供している領域の一つにAIがあり、生成AIの活用設計からAIエージェントの開発、業務への組み込みまでを扱っており、ブランディングや新規事業と組み合わせることも多い領域です。検証の終わり方と、組み込み先の業務の設計は、切り離せないところにあります。

挿絵:小舟が三方向に分かれ、続ける・しまう・作り直す

まとめ:終わり方を決めてから、検証を始める

生成AIの導入がPoC止まりになるのは、AIの性能や、現場の熱意のせいではありません。続けるか、やめるか、形を変えるか。その終わり方が、始める前に置かれていなかったことの表れです。

やめると決めた検証は、止まった検証ではありません。

執筆:杉山 諒(株式会社アマナ/プロジェクトデザイナー・GreatRIVER主宰)

企業のブランディングや新規事業開発、人材育成など幅広いプロジェクトに参画し、プランニング・ファシリテーションを中心に企画・設計に従事。クリエイティブ人材育成プログラムamana Creative Camp、創造性人材循環事業GreatRIVERを主宰。認知科学コーチ。

GreatRIVERは、プロジェクトデザイナーをはじめとする創造性人材がチームで参画し、構想と推進の両面から企業のプロジェクトに内側から伴走するサービスです。まずは停滞しているプロジェクトの見立てからで構いません。