
創造性がAIに代替されるかは、職種の名前では判断できない
来年度の人員計画の表に、一列増えました。職種と人数の右に、「AIで代替できるか」という見出しの欄が加わっています。デザイナー、編集者、プランナーと行が並び、人数の欄はすでに埋まっている。新しい欄だけが、どの行もまだ空いたままです。〇か△か×を入れるだけのはずなのに、手が進みません。
創造性がAIにまるごと代替されるという見立ては、働きの単位で見ると成り立ちにくいものです。AIは、問題を発見する、前提を疑う、異なるものを結びつける、未来を構想し実装する、という創造性の四つの働きを部分的に手伝い、速くします。けれど、それらを組み合わせ、自社の文脈の中で最後まで運ぶのは人のままです。職種ごとに答えを出そうとすると、この見立てはずれていきます。一つの職種の中に、AIが速くできる作業と、その組織の事情を知る人でなければ進まない仕事が混ざっているからです。

創造性はAIに代替されるのか:職種の名前では、欄が埋まらない
欄が空いたままなのは、問いの単位と、答えの単位が合っていないからです。あるデザイナーの一週間には、過去の制作物から参考事例を集めて並べる作業があり、新しいサービスの説明がなぜ顧客に届かないのかを考え直す時間があります。前者は生成AIの道具でずっと速く進むかもしれません。後者は、道具が案をいくつ出しても、どれが自社の顧客に合うのかを見極めるところで人の手が要ります。同じ「デザイナー」の行に、〇と×が同居している。編集者やプランナーの行でも、資料を要約する作業と、読者がまだ気づいていない問いを立てる仕事が、同じ人の一日に並んでいます。
反対に、当たり前の前提に問いを出すことは、デザイナーにも、営業や経理の担当者にもできます。働きは職種をまたいで散らばり、職種はいくつもの働きを抱えている。職種の名前は、採用や配属のために仕事を束ねたラベルです。だから問いを、「この職種はAIで代替できるか」から、「この仕事のどの働きの、どの部分を、AIが速くするのか」に置き換えます。
創造性人材とは:職種の名前ではなく、働きの組み合わせ
創造性を持って仕事をする人の肩書きは、クリエイティブディレクター、ストラテジックプランナー、UI・UXデザイナー、編集者、コミュニティマネージャー、プロジェクトマネージャーと幅広く並びます。共通しているのは職種ではなく、仕事の中で何をしているかのほうです。
創造性人材とは、職種の名前ではなく、問題を発見する、前提を疑う、異なるものを結びつける、未来を構想し実装する、という創造性の働きを、領域をまたいで組み合わせられる人のことです(GreatRIVER編集部)。
コミュニティマネージャーは、参加者のふとした声から、まだ誰も言葉にしていない問題を見つけ、催しや仕組みとして実装します。プロジェクトマネージャーは、異なる専門の知見を結びつけ、構想を現実の段取りに落とします。肩書きは違っても、四つのうちのいくつかを組み合わせて使っている点は変わりません。

一番上の職種の名前は、表に書きやすく、外から見ても分かります。その下に、どの道具を使えるか、どの手法を知っているかというスキルの層があり、生成AIを使いこなす力もここに入ります。一番奥にあるのが、何に気づき、何を疑い、何と何を結び、どこまで運ぶかという働きの組み合わせで、創造性が宿っているのはこの層です。
AIが目に見えて変えているのは、主にスキルの層です。その変化を職種の層で読むと、職種ごと置き換わるように見えます。人員計画の表で起きていたのは、この読み違いでした。
創造性の四つの働きで分ける、AIが手伝えることと人に残ること
四つの働きの一つずつについて、AIが手伝えることと人に残ることを分けてみます。AIの能力を断定するものではなく、いまの使われ方から見えている範囲での整理です。
問題を発見する
件数の多い順に並んだ問い合わせの一覧の下のほうに、同じ言い回しの質問がぽつりぽつりと続いている。まだ誰も言語化していない問題は、たいていこういうところにあります。顧客の声や市場の資料を読み込み、傾向を整理する作業はAIが手伝えます。けれど件数の少ない一行を自社にとっての問題だと気づき、名前をつけるのは、その組織の事情と顧客の様子を両方知っている人です。
前提を疑う
前任から引き継いだ取引の条件や、誰も口にしない予算の優先順位。当たり前の前提の多くは、どこにも書かれないまま残っています。AIは、別の見方や反対の立場の論点を挙げて、偏りを確かめる相手になれます。けれど書かれていないものは道具に渡しにくく、前提に問いを出すには、社内の関係の中で実際に声にし、そのあとの話し合いを引き受ける人が要ります。
異なるものを結びつける
AIは、組み合わせの案を数多く出すことができます。人に残るのは、その中から自社の文脈で意味を持つものを選び、結び直すことです。既存の分類からこぼれた可能性は、別の業界、別の職種、別の組織で過ごした時間が一人の中で重なっているとき、拾われやすくなります。
未来を構想し、実装する
文章や画像の試作、説明の骨組みをAIが速く出せば、構想の検討は前に進みやすくなります。人に残るのは、それを商品・サービス・ブランド・制度・組織として社内で実際に動くものにすることです。予算、担い手、いまある仕事との兼ね合いに一つずつ折り合いをつける後半の重さは、試作が速くなるほど際立ちます。

四つの働きは、一人の中や一つのチームの中で行き来するときに力を持ちます。問い合わせの一行に気づいた人が、そのまま前提を疑い、別の領域の経験と結び、社内で動くところまで運ぶ。その組み合わせ方が、創造性の中身です。AIが速くするのは働きの一部で、働きを組み合わせるのは、人のままです。
創造性人材を組織に迎えるとき、人員計画の表に書くもの
人員計画の表で変えることは一つです。職種の欄の横に、その行の人に何に気づき、何を疑ってほしいのか、いまの配置で実際に何と何を結んでいるのかを書く欄を置く。すると「AIで代替できるか」の欄は、この仕事のどの部分をAIで速くするか、という問いに変わります。デザイナーの行なら、参考事例の収集や試作の数はAIで増やし、空いた時間を、顧客に届かない理由を考え直すほうへ回す。そう書けば、欄はもう空きません。
欄を一つ足すと、デザイナーが何人いても前提に問いを出す人が一人もいない、編集者の結ぶ力がいまの配属では使われていない、といった職種の数では見えなかった不足が表に出てきます。四つの働きを社員だけで揃える必要はなく、採用、異動、育成、外部の人材と組むことを、局面に応じて組み合わせて使います。一人にすべてを求めるより、組み合わせの違う人を重ねるほうが、表の空きは埋まりやすくなります。
GreatRIVERでは、異なる専門性を持つ創造性人材が、チームとして企業に参画します。登録しているクリエイターのスキルを集めると、「生成AI」を挙げた人は20名いました。ブランディングや編集、ファシリテーションと同じ一覧に、数ある技能の一つとして並んでいます。AIを使う力はスキルの欄に入るもので、働きの欄を置き換えるものではない。私たちはそう見ています。

まとめ:空いた欄の横に、もう一列
来年度の人員計画の表。「AIで代替できるか」の欄は、行ごとに〇か×かを選ぼうとするかぎり、一つの行に両方が同居して埋まりません。職種の欄の横にもう一列置くと、表が示すものが変わります。この組織で、誰が何に気づき、何を疑い、何と何を結んでいるのか。そして、何が足りないのか。AIの欄は、その一部を速くする道具の欄になります。
来年度の表に一列足すなら、その一列は、人が何に気づき、何を運ぶ人なのかを書く欄になります。
執筆:杉山 諒(株式会社アマナ/プロジェクトデザイナー・GreatRIVER主宰)
企業のブランディングや新規事業開発、人材育成など幅広いプロジェクトに参画し、プランニング・ファシリテーションを中心に企画・設計に従事。クリエイティブ人材育成プログラムamana Creative Camp、創造性人材循環事業GreatRIVERを主宰。認知科学コーチ。
GreatRIVERは、プロジェクトデザイナーをはじめとする創造性人材がチームで参画し、構想と推進の両面から企業のプロジェクトに内側から伴走するサービスです。まずは停滞しているプロジェクトの見立てからで構いません。
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