オープンイノベーションは、相手選びより組んだあとの遠慮で止まる

オープンイノベーションは、相手選びより組んだあとの遠慮で止まる

協業の発表から三か月が過ぎました。両社が持ち回りで用意する合同定例の資料は、どちらの会社がつくった回も、一枚目が「御社のご意向を踏まえ」という一文で始まります。議題は前回の確認と次回の日程で尽き、質疑の時間に手は挙がらず、会議は予定より早く終わります。画面が切れたあと、社内のチャットには「さっきの件、先方に確認したほうがいいですかね」という書き込みが一つ増えています。

オープンイノベーションがうまくいかない、あるいは失敗に終わる理由は、相手選びや相性の問題より手前にあります。相手がスタートアップでも大企業でも、組んだことで、両社のあいだに新しい境界ができる。その境界に利害と遠慮が生まれ、本当は相手に伝えたいことが、境界の手前で届かなくなる。

挿絵:川を挟んだ二つの会議室で、互いに会釈する人たち

オープンイノベーションがうまくいかない理由

協業がうまくいかないとき、よく挙がる説明があります。相手の選び方を誤った。目的が食い違っていた。社内の理解が得られなかった。どれも実際に起きることです。ただ、目的をすり合わせ、社内の承認も得て組んだ協業が、半年ほどたつと定例の報告をこなすだけになっていることがある。変わったのは、両社のあいだにある空気のほうです。

オープンイノベーションがうまくいかないのは、相手選びの失敗より、組んだ組織と組織のあいだに新しい境界ができ、そこに利害と遠慮が生まれて、本音が境界の手前で止まるからです(GreatRIVER編集部)。

境界は、契約書のどこにも書かれていません。窓口の担当者、議事録、社内への報告の順番。協業が始まった日から、それらが両社のあいだに立ち上がり、言葉の通り道を細くしていきます。組んだあとに生まれるものは、選び方では防げません。

契約を結んだ日から、相手は利害を分け合う人になる

組む前、展示会の立ち話や紹介された面談では、相手の技術がまだ粗いところも、自社の現場の面倒な事情も、わりあい率直に話せていたはずです。契約を交わしたあとは、成果が出れば取り分が、出なければ責任が問われうる。担当者は自社を代表して話し、会議での一言は議事録に載り、次の交渉の材料になりうる。言葉を選ぶのは当然の慎重さです。

境界は、両社の内側にも生まれます。相手の試作がうまく動かなかったことを社内でそのまま話せば、協業そのものへの疑いを招くかもしれない。自社の承認の遅れを相手に話せば、弱みを見せることになるかもしれない。どちらの方向にも、言葉を和らげる理由が生まれます。

遠慮は、どこから積もるのか

言いにくいことは一つひとつは小さく、その日のうちに言わなくても困らないものばかりです。だから先に送られ、重なっていく。その積もり方を、時間の順に追ってみます。

図:遠慮が積もるまで(GreatRIVER作成)

組むと決めた時点では、期待が高く、懸念を口にするのは機運を冷ますように感じられます。最初の合同会議は、互いの方針を尊重し、踏み込みすぎないように気を配るところから始まります。ここでの遠慮はもっともなものです。

三か月目あたりから、様子が変わります。相手の試作が、自社の現場ではそのままでは使いにくいと分かった。社内承認が、予定より一つ多く会議を経ることになった。どれも、言えば相手の仕事を否定するように聞こえ、自社の内情を明かすことにもなる。次の定例で様子を見よう、と先に送られます。冒頭の「御社のご意向を踏まえ」は、こうした先送りが重なったころに、資料の決まり文句になっていきます。

半年後には、合同定例は報告の場になっています。懸念は資料に載らず、本当の議論はそれぞれの社内で別々に行われる。一年後、契約の更新が近づくと、悪い結果ではないが期待したほどの手応えもない。理由を両社で話し合う機会はなく、穏やかに幕を下ろした協業は失敗として語られることも少ないので、同じ経緯が次の協業でもくり返されることがあります。

私たちGreatRIVERは、内と外のあいだに境界ができると、そこに新しい利害と忖度が生まれ、外からの意見は的外れになるか、本音が境界で届かなくなるかのどちらかに陥りやすいと見ています。受発注という商習慣の根にも、組織と組織の隔たり、相手への遠慮、リスクを取らない姿勢、自社だけが良ければいいという発想の四つがあると考えてきました。対等に組んだはずの協業の一年は、この四つをほぼそのままなぞっています。境界を越える手がかりを、私たちは内と外を溶かすことに見ています。

遠慮そのものは、関係を長く保つための知恵です。厄介なのは、それが一つひとつはもっともな判断として積もっていくことです。遠慮は礼儀の顔をして、協業の中身を薄くしていく。

外の知は、境界を越えたときにはじめて解決策になる

他社と組むのは、自社の会議室では出てこない選択肢を得るためです。ただ、その種は、出会っただけでは自社の中に入ってきません。何に予算を割くか、どの顧客に何を届けるかを話し合う内側の議論にまで入ったとき、はじめて解決策の材料になります。

境界の手前にとどまった知見は、相手の会社の中では生きた議論の材料なのに、こちらに届くころには「先方の知見」という見出しの付いた要約になっている。自社の現場の細かな制約も、相手には「御社のご事情」として丸められて伝わります。外から得たものが解決策になったかどうかは、面談や検証の件数では分かりません。分かるのは、互いの技術や制約が相手の議論にどれだけ入ったかのほうです。

オープンイノベーションを進めるには、同じ議論の場をつくる

境界をなくすことはできません。できるのは、境界の上に、両社が同じ問いを抱える議論の場を重ねることです。外の知と、相手の事情と、同じ議論の場。この三つが重なったところで、境界は少しずつ薄くなっていきます。

図:協業が動き出す重なり(GreatRIVER作成)

まず変えられるのは、合同定例の書き出しです。進み具合の報告から始めるのでなく、両社が「まだ分からないこと」を持ち寄るところから始める。分からないことは、どちらの弱みでもなく、組んだ理由そのものです。

社内承認の段取り、予算が決まる時期、現場で譲れない条件といった事情も、伏せておくほど相手の想像で補われます。先に出すことは弱みを見せることではなく、相手の仕事を助ける材料を渡すことです。現場で手を動かす人や予算に関わる人が、ときどきでも同じ議論に加わると、社内の言葉が要約されずに相手に届くようになります。

言いにくいことを、個人の勇気に頼らない工夫も欠かせません。定例の資料に、まだ口にできていない懸念を並べる見出しを最初から置いておけば、懸念を出すことは個人の決断ではなく、場の決まりごとになります。会社は別のままでも、同じ問いを抱えている。そうなったとき、組んだ相手の知見は、はじめて自社の議論の中で働きはじめます。

挿絵:川の中の島で、両岸の人が一つの作業台を囲む

まとめ:分からないことから書きはじめる

オープンイノベーションがうまくいかないとき、手がかりは相手の選び方より、組んだあとの両社のあいだにあることが少なくありません。三か月目の先送り、半年後の報告だけの定例、一年後の更新の迷い。相手が見ている顧客の姿が自社の議論に入り、自社の現場の制約が相手の議論に入ったとき、組んだ意味がようやく現れます。

次の合同定例の資料を、相手の意向ではなく、自分たちがまだ分からないことから書きはじめてみる。一枚目に並ぶのは、自社の現場で気になっている点と、相手に尋ねてみたかった点です。その資料を受け取った相手は、次の回に何を持ってくるでしょうか。

執筆:杉山 諒(株式会社アマナ/プロジェクトデザイナー・GreatRIVER主宰)

企業のブランディングや新規事業開発、人材育成など幅広いプロジェクトに参画し、プランニング・ファシリテーションを中心に企画・設計に従事。クリエイティブ人材育成プログラムamana Creative Camp、創造性人材循環事業GreatRIVERを主宰。認知科学コーチ。

GreatRIVERは、プロジェクトデザイナーをはじめとする創造性人材がチームで参画し、構想と推進の両面から企業のプロジェクトに内側から伴走するサービスです。まずは停滞しているプロジェクトの見立てからで構いません。