研修が現場で活きるかどうかは、終わった翌週に決まる

研修が現場で活きるかどうかは、終わった翌週に決まる

研修の最終日、アンケートの自由記述欄に「大変参考になった」と書いて会場を出る。翌週の月曜、机の上には先週から持ち越した案件の資料と、返しそびれたメールが待っています。いつもの仕事が、いつもどおりに始まる。研修で配られたテキストは、引き出しの中にしまわれたままです。

研修が現場で活かされるかどうかは、研修の日の出来ではなく、終わった翌週に決まります。分かれ目は、学んだ考え方を自分の案件に当てはめる最初の一回に、一緒に考える誰かが隣にいるかどうか。研修の内容や講師の腕、受講者の意欲を疑う前に、見直す場所は研修の後にあります。ここで扱うのは、ブランディングや新規事業、組織づくりのように決まった手順がなく、考え方を自分の仕事に当てはめて使う種類の研修です。

挿絵:研修の部屋と、仕事が積まれた月曜の机

研修が現場で活かされない理由は、翌週の仕事の側にある

研修の翌日、職場で「どうだった?」と聞かれて、「よかったです」と答える。中身を説明しようとすると、会場で腑に落ちたはずのことが思ったほど言葉になりません。それでも、分かったという感触は確かに手元にあります。

翌週、その感触を自分の案件で使おうとした瞬間に、手が止まります。演習の題材は整えられ、前提ははっきりしていて、関係者は少なく、締め切りもありませんでした。机の上の案件は、前提がまだ揺れ、関わる部署が多く、来週には先方に何かを出さなければならない。「この考え方を、この案件で使うなら、どこから手をつけるのか」。その問いは、上司に相談するほど大きくはなく、一人で答えを出すほどの時間もありません。結局、案件はいつものやり方で進みます。手元の仕事を期日どおりに仕上げることが、その週にいちばん求められていることだからです。

翌月になると、研修の内容は「知っていること」の棚に収まります。隣の同僚は研修を受けておらず、会議の言葉も資料の組み立て方もこれまでどおりで、一人だけが違う進め方をするのは思いのほか骨が折れます。アンケートの評価は高く、受講者は確かに学んだ。ただ、現場で何が変わったかと問われると、誰も答えを持っていない。研修の効果がないと感じる瞬間は、たいていこの静かな形で訪れます。

図:研修のあとの二つの流れ(GreatRIVER作成)

研修で学んだことが落ちるのは、研修の中ではなく、研修と翌週の仕事のあいだです。

研修が現場で活かされない主な理由は、学んだ考え方を翌週の実際の案件に一緒に当てはめる人と時間が、研修の後に用意されていないことです(GreatRIVER編集部)。

研修の効果がないと感じたら、見直すのは研修の後

研修の効果がないと感じたとき、まず検討されるのは、内容の差し替えや講師の交代、演習の追加といった研修そのものの手直しです。どれも当日を確かに良くしますが、現場の景色が変わらないことがあるのは、手当ての場所と、学びが落ちる場所がずれているからです。研修で学んだことが実務になるまでには、いくつかの段があります。

図:研修から実務までの段(GreatRIVER作成)

「聞いて分かる」は研修がいちばん得意とするところで、「自分の案件に当てはめる」も演習の工夫で手前までたどり着けます。止まりやすいのは、実際の案件を前に誰かと一緒に試してみる、その次の段です。案件は職場にあり、試すべき時機は案件が動いたときにしか来ないので、この段は研修の会場では起こりえません。最後の「チームの進め方が変わる」は、一人が一度うまく当てはめただけでは起こりません。隣で一緒に試した人もまた別の案件で同じ考え方を使いはじめたとき、ようやく見えてきます。

だとすれば、見直すのは研修の内容より先に、研修の後です。翌週に誰が隣にいるのか。その問いに、企画の段階で答えが用意されているかどうかを、当日の満足度と同じくらい確かめておく価値があります。

研修を実務に落とし込む、研修と伴走実行のセット設計

研修と伴走実行のセット設計とは、研修で学んだ考え方を、翌週からの実際の案件に一緒に当てはめる人と時間を、研修を設計する段階で決めておくことを指します。研修を企画する部署と、受講者の案件を受け持つ部署は多くの場合別々で、終わってから翌週のことを考えはじめると、隣には誰も座らないまま月曜を迎えます。

まず、演習の題材を架空の事例ではなく、受講者がいま抱えている実際の案件にしておく。最終日の手元には、自分の案件に当てはめかけた途中の考えが並び、翌週はその続きから始められます。

次に、隣にいる人を決めておきます。答えを教える講師ではなく、資料を一緒に見ながら「あの考え方を、この案件に当てはめるとどうなるか」を考える人です。社内の上司や同僚、推進を担う部署の人でも、外から迎える人でも成り立ちますが、研修の中身と受講者の案件の事情の両方が分かることが前提になります。迷っている箇所を一緒に確かめ、使えそうな型を並べ、当てはまらなければその理由を考える。当てはまらなかったという発見も、考え方を自分のものにする一歩です。

終わりは、期間より案件の区切りで決めます。方向が決まるところまで、試作がひと回りするところまで、社内での最初の説明を終えるところまで。そうすれば受講者は、学んだ考え方が一つの案件を最後まで通る姿を見届けられます。この三つが決まっていれば、研修の最終日は終わりではなく、翌週の続きへの準備になります。アンケートを書いたあとに、来週の月曜に誰と何をするかが、すでに受講者の手元にある状態です。

研修後のフォローに求められること:翌週の隣にいる人

翌週の隣にいる人に求められるのは、その組織の中に入っていることです。現場の言葉を知り、試し、失敗し、もう一度考える時間を受講者と重ねる。いまのやり方がなぜそうなっているのかを尊重したうえで、どこを変えるかを一緒に考える。スポットの助言やワークショップは新しい見方を一度に届けるのに向いていますが、ひとつの案件に考え方が根づくまでの深さは、月に一度の関わりでは積み上がりにくいものです。

社内の上司や同僚なら、同じ場にいることも重ねてきた関係も、すでに手元にあります。外から人を迎えるなら、そのための時間をあらかじめ見込んでおくことになります。私たちGreatRIVERも、2024年2月にアマナの中の組織として始まり、amana Creative Camp の「点」の支援から「面」へ、というところから出発しました。

組織にはそれぞれ、これまでのやり方を選んできた理由があります。隣にいる人の仕事は、新しい型を上から当てはめることより、型といまのやり方のどこが噛み合い、どこがずれるかを受講者と一緒に確かめることです。講師一人にも受講者一人にも重いこの仕事を、誰が一緒に引き受けるのか、研修を設計する段階で決めておく意味があります。

挿絵:階段でつながった机で、同僚と研修の本を広げる

まとめ:翌週の月曜に、隣にいる人を決めておく

研修は、共通の言葉と型を多くの人に一度に届けられる、ほかに代えのきかない入口です。研修が現場で活かされないとき、その入口に問題があるとはかぎりません。学んだことが落ちるのは、研修と翌週の仕事のあいだです。

翌週の月曜、机の上には持ち越した案件の資料がある。その隣に、研修の中身を知り、案件の事情も分かる人が一人いれば、引き出しは開き、テキストの一ページが資料の横に並びます。

研修は、終わった翌週に始まります。

執筆:杉山 諒(株式会社アマナ/プロジェクトデザイナー・GreatRIVER主宰)

企業のブランディングや新規事業開発、人材育成など幅広いプロジェクトに参画し、プランニング・ファシリテーションを中心に企画・設計に従事。クリエイティブ人材育成プログラムamana Creative Camp、創造性人材循環事業GreatRIVERを主宰。認知科学コーチ。

GreatRIVERは、プロジェクトデザイナーをはじめとする創造性人材がチームで参画し、構想と推進の両面から企業のプロジェクトに内側から伴走するサービスです。まずは停滞しているプロジェクトの見立てからで構いません。