BtoBブランディングは、担当者が上司に言える一行から始まる

BtoBブランディングは、担当者が上司に言える一行から始まる

月曜の午後、取引先の担当者が、上司に回すための比較表を仕上げています。候補は三社。価格、納期、導入実績、サポート体制の行に、丸と数字が入っています。そのうちの一社が、あなたの会社です。商談では手応えがあり、資料には付箋も貼ってくれていた。けれど比較表の上では、自社の列はほかの二社とほとんど見分けがつきません。担当者は少し考えてから、いちばん下の「選定理由」の行に、一行だけ書き足します。上司がこの表に目を通すのは、おそらく次の会議の前の数分です。

BtoBブランディングの進め方は、この一行から逆にたどると見えてきます。BtoBでは、会社を見つけて比べる人と、最終的に決める人が、別の人であることが少なくありません。だから最初に整えるのは、ロゴや広告より先に、顧客の担当者が上司に「なぜここなのか」と聞かれたとき、そのまま口にできる一行です。その一行の元は、自社の営業が商談で売る理由をどう話しているかにあります。営業の話し方を確かめ、担当者が比較表に書ける一行に整え、決裁者が会社として選ぶ意味まで運べるようにする。進め方の順序は、この三つです。

挿絵:同じ箱を前に迷う担当者と、霧に隠れた上の島

BtoBブランディングとは

消費者向けの商品では、目に入った一瞬の印象が、そのまま手に取る理由になることがあります。BtoBの取引では、その一瞬のあとに、社内での長い説明の道のりが続きます。

BtoBブランディングとは、自社を見つけて比べる担当者が、自分の上司や決裁者に、選ぶ理由を自分の言葉で説明できるようにすることです(GreatRIVER編集部)。

この定義の要は、主語が自社ではなく、顧客の担当者にあることです。ブランドが働く場所は、顧客の会社の会議室や稟議の書類の中にあり、そこに自社の人は同席できません。印象が要らないということではなく、好感や安心感は候補に入れるかどうかを左右します。ただ、印象はそのままでは上司に手渡せません。機能や価格の比較で差がつかなくなったとき、決め手は、担当者が書ける一行に移ります。

BtoBの購買では、比べる担当者と決裁者が分かれる

消費者向けの買い物では、見つける人、比べる人、お金を払う人、使う人が、同じ一人であることがよくあります。BtoBでは、使うのは現場の部署、候補を探して比べるのは担当者、意見を添えるのは上司、承認するのは部長や役員といった決裁者、というように立場が分かれ、購買や法務、情報システムの部門が加わることもあります。売り手と直接話すのは、そのうちの一部です。

担当者は三社のことを社内の誰よりもよく知っていますが、決めるのは担当者ではありません。担当者がしているのは、自分が感じたことを、会ったことのない人にも分かる説明に直して、上に手渡す仕事です。好感は比較表のどの行にも入らず、価格や納期の行はどの会社も埋められます。違いが現れるのは、いちばん下の一行くらいしかない。

売り手の側からは、手の出せない場所に見えます。けれど、その一行の材料を渡しているのは自社です。商談で話したこと、資料に書いたこと、問い合わせへの返事。担当者はそれらの中から、上司に言えそうな言い回しを拾っています。BtoBブランディングは、この拾われ方を設計する仕事でもあります。

選ぶ理由の説明は、顧客の社内をどう上がっていくか

選ぶ理由の説明が、顧客の社内をどう上がっていくのか。段に分けてたどってみます。

図:選ぶ理由が上がっていく段(GreatRIVER作成)

最初の段は、担当者が自社を知るところです。展示会や検索、紹介で目に入ったときの印象や、何をしている会社かの分かりやすさが効く、消費者向けに近い段です。二つめの段で、担当者は候補を三つほどに絞って比べます。欲しいのは、違いを具体で言える材料です。「使いやすい」「実績が豊富」は、どの会社の資料にも書いてあるので差になりません。

三つめの段が、上司への説明です。一時間の商談も十数ページの提案書も、数行の要約と比較表一枚に縮み、上司が尋ねることは突き詰めれば一つ、なぜここなのか、です。担当者が自分の口で言い直せるものだけが、この段を上がっていきます。四つめの段で、決裁者は候補の会社の人に一度も会わないまま決めることもあります。見るのは、今期の方針と合っているか、あとで問われたときに理由を説明できるかという、会社として選ぶ意味です。

段を上がるごとに、説明は短くなり、自社の人からは遠くなります。選んだのは担当者で、決めたのは、こちらが一度も会ったことのない人でした。

誰が、何を見て決めているか

段ごとに、見ているものと、求められる説明が違います。

図:誰が、何を見ているか(GreatRIVER作成)

担当者は機能と条件を見ていて、必要なのは違いの具体です。上司は説明のしやすさを見ていて、必要なのは「三社を比べて、この点でここが上回った」と言える比べた結果です。決裁者は会社として選ぶ理由を見ていて、必要なのは、この取引が自社の何を前に進めるのかという選ぶ意味です。

上の立場になるほど、求められる説明は抽象的になります。その言い換えをしているのは担当者と上司で、自社の売る理由が上まで運ばれるかどうかは、二人がどれだけ無理なく言い換えられるかにかかっています。決裁者に向けた立派な文句を先に用意しても、担当者が自分のものとして言えなければ上がりません。反対に、担当者が具体の違いを自分の口で言えれば、上司はそこから比べた結果を、決裁者は選ぶ意味を組み立てられます。

BtoBブランディングの進め方:担当者が社内で使える言葉から始める

進め方は、担当者が社内で使える一行から逆に組み立てます。

  • 自社の営業が、売る理由を自分の言葉で言えるかを確かめる

  • 顧客の担当者が、比較表に一行で書ける理由に整える

  • 決裁者が見る、選ぶ意味へつなげる

最初に確かめたいのは、自社の側です。営業の一人ひとりに、お客さまが上司にうちを一言で説明するとしたら何と言うと思うか、と聞いてみる。答えが人によって大きく違う、あるいはウェブサイトの文言を繰り返すだけなら、売る理由はまだ営業のものになっていません。ブランドの表現を決める部署と顧客の前で話す営業が離れているとこの違いは生まれやすく、両者が同じ問いを囲んで話すだけでも、説明の手触りは変わります。

次に、それを一行に整えます。確かめる問いは三つです。比較表のいちばん下の行に収まるか。その会社の業務の言い回しで言えているか。ほかの二社には書けないことか。「高品質」「柔軟な対応」は収まりますが、どの会社にも書けてしまいます。具体的でも長い説明は、上司の前で言い直せません。手がかりになるのは、受注や失注のあとに、担当者が上司にどう説明したのか、何が決め手になったのかを聞くことです。自社が強みだと思っていたことと、顧客の社内で使われた理由が違うと気づいたら、優先したいのは顧客の社内で使われたほうです。

そのうえで、選ぶ意味へつなげます。ここは自社が直接書ける部分ではありませんが、顧客の事業の方針や、決裁者がいま気にかけていることを担当者と話題にしておくと、上へ説明するときの材料になります。

GreatRIVERが企業の内側から支える領域の一つに、Salesがあります。売る理由を言語化し、現場が自分の言葉で語れる状態にする仕事です。営業が自分の言葉で語れるようになったとき、その説明は商談を通じて顧客の担当者に渡り、上司に話すときの元になります。

挿絵:芽の出た箱を階段で上の人へ運ぶ担当者

まとめ:「選定理由」の一行に、何が書かれるか

BtoBでは、自社を見つけて比べる担当者と、最終的に決める決裁者が、別の人であることが少なくありません。選ぶ理由の説明は、担当者から上司へ、上司から決裁者へと上がっていくあいだに短くなり、自社の人からは遠くなります。

だからBtoBブランディングは、担当者が社内で使える一行から逆に組み立てて進めます。自社の営業が売る理由を自分の言葉で語れるかを確かめ、それを顧客の担当者が一行で書ける理由に整え、決裁者が選ぶ意味を組み立てられる材料を渡していく。ロゴや広告は、その会社を最初に知ってもらう入口として働きます。

月曜の午後、担当者が比較表のいちばん下の行に書き足す一行が、「対応が丁寧だった」ではなく、その会社の業務の言い回しで、ほかの二社には書けない理由になっていたとしたら。上司はその一行を自分の一文に直し、次の会議の前の数分で、決裁者のもとへ上げていきます。

執筆:杉山 諒(株式会社アマナ/プロジェクトデザイナー・GreatRIVER主宰)

企業のブランディングや新規事業開発、人材育成など幅広いプロジェクトに参画し、プランニング・ファシリテーションを中心に企画・設計に従事。クリエイティブ人材育成プログラムamana Creative Camp、創造性人材循環事業GreatRIVERを主宰。認知科学コーチ。

GreatRIVERは、プロジェクトデザイナーをはじめとする創造性人材がチームで参画し、構想と推進の両面から企業のプロジェクトに内側から伴走するサービスです。まずは停滞しているプロジェクトの見立てからで構いません。