
組織変革の失速は、最初の成果の先を描かない計画から始まる
社内ポータルの片隅に、変革プロジェクトのページがあります。立ち上げの日に経営陣のメッセージが載り、推進の体制と重点テーマが並び、翌月には最初の取り組みの報告が書き足されました。ページの目次は「立ち上げの趣旨」「推進体制」「第一期の取り組み」の三つで終わり、最終更新日は、報告を書き足した日のまま動いていない。担当者の名前もそのまま残っています。変わったのは、このページを開く人の数だけです。
組織変革が立ち上げで止まるのは、立ち上げの計画が、最初の成果のところで終わっているからです。その先にある組織の変化は、別の線として後回しにされている。そのため試行の手応えが出たあと、次に誰の何が変わればよいのかを、誰も言えなくなります。失速は、この空白から始まります。

組織変革が立ち上げで止まる理由
組織変革が立ち上げのあとで失速するのは、最初の成果までの計画と、その先の組織の変化が別々の線で描かれ、次に誰の何が変わるかを誰も言えなくなるからです。失速させないために最初に要るのは、短期の成果から中長期の組織の変化までを一本の線で描き、関わる人と共有しておくことです(GreatRIVER編集部)。
立ち上げの計画は、たいてい丁寧につくられています。目的、推進の体制、最初の数ヶ月のテーマと担当者。はっきりしていないのは、その先です。計画書の終わりに置かれているのは、新しい制度の試行や部署をまたぐ取り組みの発足といった、短期で見える成果です。その成果によって次に誰の動き方がどう変わるのかは、書かれていません。
一方で、組織の変化は「挑戦が当たり前になる組織」「部署を越えて動ける組織」のように、中長期の抽象的な言葉で語られます。二つは同じ資料の中にあっても別々の線として描かれ、あいだに何が起きるのかは誰の仕事にもなっていない。試行が終わった日に次の一手が誰の手にもないのは、この隔たりのせいです。
半年後のページから、立ち上げの日へさかのぼる
失速の原因を探すには、ページの最終更新日から、時間を逆にたどってみるのが早道です。
半年後、ページの更新は途絶えています。誰かが止めると決めたわけではありません。担当者は本来の業務に呼び戻され、集まる頻度が少しずつ落ち、書き足すことがなくなった。進み具合を尋ねれば「進めています」と返ってくるでしょう。嘘ではありませんが、何がどこまで進んだのかを、ページは語っていない。
最初の成果が出た日、試行は無事に終わり、報告は好意的に受け止められました。ただ計画は、試行を他の部署へ広げるのか、この手応えを受けて誰の動き方が変わるのかに答えていませんでした。次の計画を話し合う会議を待つあいだに、関わった人はそれぞれの持ち場へ戻っていく。手応えはあるのに、それを次へ渡す先がない。最初の成果が出た日は、変革にとってもっとも無防備な日です。
立ち上げの日には、すでに計画が短期の成果のところで区切られていました。区切ったのは、怠慢ではなく誠実さです。確かに約束できるのは短期のことだけで、不確かな中長期の変化を書けば守れない約束になりそうに見える。だから書かない。
さらに手前には、変革を任された人が抱えていた願いがあります。私たちが受ける相談の奥にも、「戦略を、現場で動くところまで届けたい」という困りごとが置かれています。願いの時点では、線は一本だったのです。それが計画に落とし込む段で、確かな部分と不確かな部分に分けられ、二本になった。失速の原因は半年後ではなく、計画をつくる最初の手つきにあります。

上の段では、試行の手応えのあとが「次の計画」に預けられ、ページの更新が途絶えていきます。下の段では、同じ手応えのすぐ先に動き方の変化が置かれ、組織の変化までが一続きに描かれている。違いは、試行が終わった日に、次の一手がすでに線の上にあるかどうかです。
失速させない組織変革の進め方:最初の成果から組織の変化までを一本の線で描く
計画書の終わりに、短期の成果だけでなく、その次に誰の何が変わるかまで書いておく。失速させない進め方の芯は、この一点にあります。

線の上に置く点は四つです。何を始めるかを決める立ち上げ。短期で見える最初の成果。その成果を受けて誰の何が変わるかという、動き方の変化。そして、動き方の変化が積み重なって中長期に残る、組織の変化。計画から抜け落ちやすいのが三つ目です。
最初の成果は、その先につながるものを選ぶ
試行を選ぶとき、目立つものや確実に出せるものに目が行きがちですし、早く手応えを得ることには意味があります。ただ、この試行がうまくいったら次に誰の動き方が変わるのかは、確かめておきたい。それが言えない成果は、その日で完結してしまいます。逆に、ある部署で試した会議の進め方が、隣の部署の担当者が参加したことで、二つの部署の打ち合わせのやり方を変えはじめることもある。成果の大きさより、つながる先があるかどうかで選びます。
成果のすぐ先に、誰の動き方が変わるかを置く
「新しい制度ができた」は成果です。その先に置くのは、「次の四半期から、営業の担当者が企画の最初の打ち合わせに加わる」「各チームのリーダーが、月に一度、他部署の進め方を見に行く」といった、誰がいつから何をするようになるかが言える変化です。それが言えたところで、成果は一つの出来事から、変革の中に位置を持つものになります。
組織の変化は、動き方の積み重ねで書く
中長期の組織の変化を、無理に数値や期限に置き換える必要はありません。「部署を越えて動ける組織」なら、どの会議に誰が加わり、どんな相談が部署をまたいで行き来するようになっているかと書き直す。そうすると、手前の動き方の変化と、先にある組織の変化が、同じ線の上に並びます。一本の線は、確かめながら引き直す前提の仮の線です。何も描かれていない状態から次の計画をつくるより、引き直すほうがずっと早く動けます。
組織変革の推進体制:一本の線を、誰と持つか
線が一人の頭の中にしかないと、その人が異動したときに、線も一緒に消えてしまいます。だから線は、立ち上げを担う人だけでなく、動き方が変わる側の現場の担当者や管理職とも共有しておきます。現場が動かないように見えるとき、多くの場合、動いてほしい先が見えていないだけです。
線を持つ人には、進み具合を確かめ、線を引き直しつづける仕事もあります。試行の報告の日に、線のどこまで来たのかを言い、次の点を示せる人。その人が計画の中に置かれているかどうかで、手応えの出た日が、失速の始まりになるか、次の変化の始まりになるかが分かれます。
GreatRIVERでも、進め方の一つに「タイムラインを描く」を置き、短期の成果創出から中長期の組織変化までを一本の線でつないで、混成チームで共有しています。目指すのは、創造的に活性化しつづける組織です。

まとめ:最終更新日の次に書き込まれるもの
組織変革が立ち上げで止まるのは、誰かが手を抜いたからではなく、短期の成果までの計画と、その先の組織の変化が、別々の線で描かれているからです。止めないための進め方は、立ち上げの段階で、短期の成果から中長期の組織の変化までを一本の線で描き、そのあいだに「誰の動き方が変わるか」を置いて、関わる人と共有しておくことにあります。
目次が三つで終わったままのページの、最終更新日の次の行に、何が書き込まれるか。新しい取り組みの告知なら、線はまた途切れます。営業の担当者が企画の打ち合わせに加わるようになった、隣の部署のリーダーが進め方を見に来るようになった。誰の仕事が変わったかの報告なら、変革は続いています。
執筆:杉山 諒(株式会社アマナ/プロジェクトデザイナー・GreatRIVER主宰)
企業のブランディングや新規事業開発、人材育成など幅広いプロジェクトに参画し、プランニング・ファシリテーションを中心に企画・設計に従事。クリエイティブ人材育成プログラムamana Creative Camp、創造性人材循環事業GreatRIVERを主宰。認知科学コーチ。
GreatRIVERは、プロジェクトデザイナーをはじめとする創造性人材がチームで参画し、構想と推進の両面から企業のプロジェクトに内側から伴走するサービスです。まずは停滞しているプロジェクトの見立てからで構いません。
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