ブランディングの効果測定は、施策の前に問いを書くことから始まる

ブランディングの効果測定は、施策の前に問いを書くことから始まる

去年より数ポイント伸びた棒グラフが、年に一度の認知度調査の報告書に載っています。数日後の経営会議で、これはブランディングの成果と考えてよいのか、と尋ねられます。担当者は、同じ時期に大きく打った新商品の広告のことを思い浮かべ、すぐには言葉が出てきません。伸びたことは確かでも、それが誰の、どの仕事のおかげなのかを言い分けられないのです。

ブランディングの効果測定で先に要るのは、認知度や売上のような結果の数字を集めることより、「何が変わったら効いたと言えるか」を始める前に問いとして決め、社員や顧客の判断と行動の変化を見ていくことです。効果がわからないのは、効果がないからとはかぎりません。結果の数字だけで確かめようとしているから、見えないのかもしれない。ブランディングのKPIや指標は、その数字の外側にも置けます。

挿絵:棒グラフの前で答えに詰まる担当者

ブランディングの効果は、なぜ測りにくいのか

結果の数字には、ブランディング以外の多くのものが混ざるからです。認知度は、広告の出稿量でも、商品の売れ行きでも、業界で話題になった出来事でも動きます。ブランディングはそのどれにも少しずつ関わっていますが、一つの原因として切り出すのは難しい。

もう一つは、ブランディングが変えようとしているものの多くが、すぐには数字にならない場所にあることです。会社が何を大切にし、顧客に何を約束するのかを定めて伝えていく。その効果は、顧客がその会社を選ぶ理由や、社員が判断に困ったときに頼る考え方の中に、時間をかけて現れます。

ブランディングの効果測定とは、認知や売上という結果の数字だけでなく、社員や顧客の判断と行動がどう変わったかを、先に決めた問いで見ていくことです(GreatRIVER編集部)。

結果の数字は手放さない。けれど、それだけで効果を言い切らない。何が変われば効いたと言えるかを、始める前に書いておけば、あとから集まる数字や出来事を、その問いに照らして読めるようになります。

認知度が上がれば、ブランディングは効いたと言えるのか

言えるのは、効果の一部です。認知度の伸びは確かな兆しの一つですが、それだけで効いたとまでは言えません。

報告書の数ポイントには、新商品の広告、店頭やメディアでの露出、ブランディングで整えた言葉やデザインが重なっています。調査の設問はたいてい「この会社を知っていますか」なので、どの経路で名前を知ったのかまでは分けられません。また認知度は、名前を知っている人がその会社をどう思っているかまでは教えてくれません。認知が上がっても、思われ方が意図と違っていれば、手応えはまだ得られていないことになります。

認知度調査を軽く見る理由にはなりません。毎年同じ設問で続けてきた調査は、何年分かを並べれば傾向が見える、ほかでは手に入らない記録です。気をつけたいのは、それを効果のすべてとして読まないことです。担当者がすぐに答えられなかったのは、「これはブランディングの成果か」に答える材料が、認知度調査の中にもともと入っていなかったからです。

ブランディングのKPIや指標は、行動と判断のどこに置けるのか

置き場所は、顧客の行動と、社員の判断の中にあります。ブランディングの効果は、表に近いところから順に、露出、認知、行動、判断という層に現れます。

図:ブランディングの効果は、どの層に出るか(GreatRIVER作成)

上の二つの層は、配信実績や認知度調査のように数字になりやすく、KPIとして置かれやすい層です。下の二つの層は数字になりにくいものの、ブランディングが本当に変えたいものの多くはこちらにあります。

行動の層は、顧客がその会社をどう選び、使いつづけているかです。問い合わせのメールに、掲げた言葉がそのまま書かれてくるか。取引先が自社をどんな会社として紹介しているか。契約を続ける顧客と解約する顧客が、何を理由に挙げるか。

判断の層は、社内の決め方です。稟議や起案の書類に、定めた考え方が進める理由や見送る理由として書かれるようになったか。部署の違う社員が、会社の約束を同じように、それぞれの言葉で語れるか。ここが変わらないかぎり、上の層の数字が一時的に動いても長くは続きにくい。広告で名前を知った人が問い合わせてきても、応対する社員ごとに語り方がばらばらなら、顧客の中に一つの像は結ばれません。

数字になりにくい層を見るときは、数えることより、同じやり方で見つづけることが要ります。稟議の書類から理由として挙がった言葉を拾う。年に二度、同じ顧客の何人かに同じ質問をする。やり方が毎回同じなら、前と後を比べられます。比べられる記録は、測定と呼んでよいものです。

ブランディングの効果測定は、いつ、何から始めればよいのか

数字にならないものほど、取りかかる前に、問いの形で置いておきます。始めてから確かめようとすると、比べるための「前」がありません。露出と認知の層にはこれまでどおり数値の目標を置き、行動と判断の層には、数値の代わりに問いを置きます。

  • 一年後、問い合わせの文面に、自社が掲げた言葉は出てくるか

  • 取引先は、自社をどんな会社として人に紹介しているか

  • 契約を続ける理由として、顧客は何を挙げているか

  • 新しい取り組みを見送るとき、その理由として自社の考え方が使われているか

問いごとに、問い合わせの記録を読むのか、顧客に尋ねるのか、稟議を集めるのか、誰がどれくらいの間隔で見るのかを決めると、問いは掛け声ではなく、記録を取る段取りになります。そのうえで、始める前の姿を記録しておく。振り返るとき人の記憶は変わったあとの姿に寄っていき、始める前の記録は、あとからはつくれません。

層によって、変化が現れる時期も違います。露出はすぐに動き、行動と判断の層はさらに時間をかけて現れることが多い。いつ見るのかを先に決めておけば、半年たって何も動いていないように見えても、まだ見る時期ではないのか、本当に変わっていないのかを分けて考えられます。答えが出やすい問いばかりを選ばず、答えるのが難しい問いも一つか二つは手元に置いておくことも大切です。

まだ測れないことは、どう伝えればよいのか

何が測れていて、何がまだなのかを、分けて示します。数字で示せること、記録として見えているけれど数字にはなっていないこと、まだ見る手立てがないこと。報告を数字だけで組むと、認知度の伸びがすべてブランディングのおかげのように読まれたり、伸びなかった年には効いていないと読まれたりします。三つを分けて並べておけば、認知度は認知度として、その大きさのまま受け取られます。

まだ見る手立てがないことには、いつ、どうやって見えるようにするのかを添えます。次の半期から稟議の書類で見ていく予定だ、と添えれば、空白は放置ではなく、次に手をつける項目として読まれます。確かめられていないものを確かめたことにして報告すると、次の年も同じ数字で説明を続けることになります。

私たちGreatRIVERも、同じところに立っています。企業に伴走する中で、関わった量は記録できても、企業の中で何が変わったのかを示す数字は、まだ持っていません。だから、効果を語る前に、測れるようにすることを先に置いています。人と社会について良くしたいと掲げたことには、まだ対応する指標をひとつも置けていません。その開きを隠さずにおくことが、これから測っていくための出発点になると、私たちは見ています。

挿絵:断面になった島の各階を階段で見て回る担当者

まとめ:測れるものから、まだ測れないものまで

ブランディングの効果は、露出、認知、行動、判断という層に現れます。上の二つの層は数字になりやすく、認知度調査や配信の実績で追いかけられます。下の二つの層は数字になりにくいものの、顧客の選び方や社内の決め方という、ブランディングが本当に変えたいものの多くがそこにあります。

始める前に問いを書き、層ごとに何をどうやって見るのかを決め、始める前の姿を記録する。数字にならない層は、同じやり方で見つづけることで比べられるようにする。報告では、数字で示せること、記録で見えていること、まだ見えていないことを分けて並べる。

認知度の数ポイントは、そのまま認知度の数ポイントとして受け取ればよいのです。その下で何が変わったのかは、別の問いで確かめる。まだ測れないと書いておくことも、測ることのうちです。

執筆:杉山 諒(株式会社アマナ/プロジェクトデザイナー・GreatRIVER主宰)

企業のブランディングや新規事業開発、人材育成など幅広いプロジェクトに参画し、プランニング・ファシリテーションを中心に企画・設計に従事。クリエイティブ人材育成プログラムamana Creative Camp、創造性人材循環事業GreatRIVERを主宰。認知科学コーチ。

GreatRIVERは、プロジェクトデザイナーをはじめとする創造性人材がチームで参画し、構想と推進の両面から企業のプロジェクトに内側から伴走するサービスです。まずは停滞しているプロジェクトの見立てからで構いません。