社員の主体性が育たないのは、決めてよい範囲が見えていないから

社員の主体性が育たないのは、決めてよい範囲が見えていないから

夕方、管理職の画面の端に、通知が一つずつ重なっていきます。「この方向で進めてよろしいでしょうか」「先方にはこの内容で返してよいですか」「資料の構成、これで大丈夫でしょうか」。送り主は三人とも別々の部下で、どの問いも、本人がすでに答えをほぼ持っているものでした。期初の面談で、自分で考えて動いてほしいと伝えたのは、三か月前のことです。

社員の主体性が育たない理由は、本人の意欲の低さよりも、自分で決めてよい範囲が見えていないことにあります。範囲を示さないまま「自分で考えて」と求めると、外れたときの重さだけが本人の側に移り、その重さが伺いの数になって表れます。部下の主体性を育てる方法も、励ましや意識づけより、決めてよいことを言葉で渡し、少しずつ広げていくことが先です。

挿絵:上司の机に、部下からの伺いが積み重なる

社員の主体性が育たない理由

主体性という言葉は、人に備わった性質を指すように使われがちです。けれど同じ人が、ある部署では次々に動き、異動した先では一つずつ伺いを立てる、ということは珍しくありません。数か月で入れ替わったとすれば、それは性質ではなく、その人の周りにある、決めてよいことの見え方です。

社員の主体性とは、性格や意欲そのものではなく、自分で決めてよい範囲が見えているときに表に出てくる動き方のことです。範囲が言葉で示されると、確かめるための伺いは減っていきます(GreatRIVER編集部)。

主体性が欠けていると見える人の多くは、どこまでを自分で決めてよいかの見通しを、まだ持てていません。面談で意識を高める、評価の項目に加える、成功した人の話を共有する。どれも本人の内側から引き出そうとする手で、引き出そうとするほど期待は大きくなります。期待が大きくなるのに、何を決めてよいかは変わらない。そのずれが、伺いの数になって表れます。

「自分で考えて」が、伺いを増やす仕組み

「自分で考えて動いてほしい」という言葉には、信頼が込められています。ところが受け取る側には、別の聞こえ方をすることがあります。返事の言い回しは自分で決めてよいとして、納期を一週間ずらしたいという相談は、自分で受けてよいのか。資料の構成は変えてよいとして、結論の順番まで入れ替えてよいのか。言葉の中に、その答えは書かれていません。

書かれていないまま任されると、外れたときの重さは本人の側に寄ります。上司の考えと違えばやり直しになり、先方への返事がずれていれば謝りに行くのは自分です。その重さを一人で抱えないために、人は決める前にひと言、たずねます。決めてよい範囲が見えない人は、動かないのではなく、確かめている。

上司の側には、範囲まで細かく決めれば指示と変わらない、そこも自分で見つけてほしい、という願いもあるでしょう。ただ、何も示されなかった人がそれを探す方法は、ほとんどの場合、伺いを立てることしかありません。主体性を求める呼びかけが強いほど、外れたときの重さも増し、人は動く前に上司の返事を待つようになります。

主体性は、決めてよい範囲が見えたところに出てくる

ここで、本人がどれだけ主体性を求められているかと、決めてよい範囲が見えているかを分けて考えてみます。主体性が育たないと感じる職場では、前者がよく語られる一方で、後者はほとんど話題になりません。

図:主体性は、どこで動き出すか(GreatRIVER作成)

左上は、主体性を強く求められながら、決めてよいことが見えていない状態です。冒頭の夕方の画面は、ここで起きています。動こうとする気持ちがあるぶん、伺いの数は増えていきます。左下と右下は求められていないぶん伺いも少なく、手順の決まった仕事では右下がむしろ落ち着いた状態であることも多いでしょう。右上は、決めてよいことが見えていて、そのうえで任されている状態で、主体性と呼ばれる動き方はここで表に出てきます。

求める声をさらに強めても、点は上に動くだけで、右には動きません。周りが手を入れられるのは、決めてよいことを見えるようにする横の軸です。

チームの仕事ごとに、誰が決め、誰が動き、誰が責任を持つかを分ける

組織の縦の仕組みは、誰が決めるか、誰が実行するか、誰が責任を持つかの三つの問いに分けられます。組織図の上ではこれらが答えられていても、チームの中の一つひとつの仕事について答えている職場は多くありません。三つはひとまとめに「担当」と呼ばれ、担当が何を決めてよいのかが言葉にならないまま、仕事が進んでいきます。

三つを分けて言葉にすると、決めてよいことは見えてきます。たとえば、先方への返事の文面は本人が決めて、本人が送る。納期の変更は本人が先方と相談するが、決めるのは上司で、責任も上司が持つ。こう分けておけば、文面について伺う理由はなくなり、納期について伺うことには意味が残ります。

また「誰が決めるか」の答えは、本人か上司かの二択ではなく、程度があります。

図:どこまでを、自分で決めてよいか(GreatRIVER作成)

進め方を相談してから動く。決めて、すぐに報告する。決めて、あとでまとめて共有する。次に渡されるものの広さそのものを、本人が決める。社外との取り決めは左寄りに、チームの中の段取りは右寄りに、というように仕事によって位置が違ってかまいません。肝心なのは、どの仕事がどの位置にあるかを、本人と上司が同じように知っていることです。周りが「主体性が育った」と感じるとき、実際に起きているのは、毎回たずねる位置から「決めて、あとで共有する」位置への移動です。

部下の主体性を育てるには、範囲を渡して、少しずつ広げる

ここで挙げたいのは、大がかりな制度ではなく、日々の伺いへの答え方を変えることです。「この方向で進めてよろしいでしょうか」に、上司は「それで大丈夫」と返すこともできれば、「このくらいの調整なら、次からは自分で決めて、あとで教えてくれればいい」と返すこともできます。返事は一件ごとに消えていきますが、範囲は次の仕事に持ち越されます。

渡したあとに大切なのは、外れたときの応じ方です。任された中で決めたこと自体をとがめると、本人は試されていたのだと受け取り、渡したものは一度で元に戻ります。結果は一緒に振り返りつつ、本人が決めてよかったことは言葉にして伝えておく。

一度に大きく渡さなくてもかまいません。最初は返事の文面だけ、迷わなくなったら日程の調整まで。広げるたびに、ひと言で伝えます。積み重なると、本人はやがて、次に広げてほしいところを自分から提案するようになります。図2の右端の位置です。

私たちGreatRIVERは、外の視点を持つ人材として企業のチームに加わる仕事をしています。社員が主体性を持って動き出すことを望みつつ、そのとき私たちが手を引けばよいとは限らない、とも考えています。主体性と外の視点は、取り合うものではありません。

挿絵:柵で区切った畑を、部下がそれぞれ自分で耕す

まとめ:返事ではなく、範囲で答える

社員の主体性が育たない理由は、決めてよいことの見通しが、本人に渡っていないところにあります。求める声を強めても、その見通しは増えません。

部下の主体性を育てるには、誰が決め、誰が動き、誰が責任を持つかを、チームの中の一つひとつの仕事について言葉にする。任せた中で決めたことはとがめず、小さく渡して少しずつ広げる。そうして積み重なった人は、やがて次に引き受けたいところを自分から提案するようになります。

明日の朝、画面にまた一つ、伺いの通知が重なるかもしれません。そのとき返すのは、「それで大丈夫」の一言でしょうか。それとも、次から同じことを本人が決めてよい、というひと言でしょうか。

執筆:杉山 諒(株式会社アマナ/プロジェクトデザイナー・GreatRIVER主宰)

企業のブランディングや新規事業開発、人材育成など幅広いプロジェクトに参画し、プランニング・ファシリテーションを中心に企画・設計に従事。クリエイティブ人材育成プログラムamana Creative Camp、創造性人材循環事業GreatRIVERを主宰。認知科学コーチ。

GreatRIVERは、プロジェクトデザイナーをはじめとする創造性人材がチームで参画し、構想と推進の両面から企業のプロジェクトに内側から伴走するサービスです。まずは停滞しているプロジェクトの見立てからで構いません。