
組織で活躍するクリエイターは、決まっていない仕事を面白がれる人
「方向性はお任せで」。打ち合わせの終わりに、口頭でそう添えられた依頼に、困った顔をする人と、身を乗り出す人がいます。二人とも技量は確かで、ポートフォリオを並べても優劣はつけにくい。分かれるのは、その一言を、手がかりの欠けた依頼と受け取るか、まだ誰も決めていない部分に手を入れられる依頼と受け取るかです。
組織で活躍するクリエイターの特徴は、専門の確かさに加えて、戦略や方針がまだ決まっていない仕事を面白がれる構えにあります。そうした仕事は、組織の中ではむしろ普通のことだからです。そして、この構えは生まれ持った性格だけで決まるものではありません。職場がどう頼み、方向が揺れたときにどう受け止めるかによって、育ちもすれば、しぼみもします。インハウスデザイナーにも、外から関わるクリエイターにも、同じことが言えます。

組織で活躍するクリエイターは、「方向性はお任せで」の受け取り方で分かれる
同じ依頼を受けた二人を追ってみます。指定のはっきりした仕事なら、どちらも期日どおりに確かなものを仕上げます。違いが表に出るのは、次の三つの場面です。
頼まれた日
困った顔をした人は、まず条件をそろえようとします。対象は誰か、予算はいくらか。筋の通った問いですが、頼んだ側にもまだ答えがないとき、その人は条件が届くのを待つことになります。身を乗り出した人の問いは、少し向きが違います。この取り組みで何が変わればうれしいのか。答えが曖昧でも、その日のうちに粗い案を二つ三つ描き、「たとえば、こういう方向なら」と机に置きます。
方向が揺れたとき
上の役職者に見せたら別の観点が出てきた、部署のあいだで優先したいことが食い違っていた。組織の仕事では珍しくありません。一人にとって、これは土台が崩れた知らせで、次の指示が固まるまで手を止めます。慎重で、誠実な反応です。もう一人は、何が変わり、何は変わらなかったのかを見ます。変わらなかった部分こそ、この組織が本当に大事にしていることかもしれないからです。
決まらないまま期日が近づいたとき
一人は、決めてもらえれば仕上げられると、判断を頼んだ側に戻します。仕事の分け方としては正しいふるまいです。もう一人は、決まったことと決まっていないことを短い言葉にして並べ、関わる人それぞれの立場や事情を聞きながら、どこまでなら合意できそうかを探ります。正しい案で押し切るのではなく、相手が納得して動ける形を一緒に探す。私たちが大切にしている「正論ではなく、心を動かす。」という言葉に近いふるまいです。
三つの場面を通して、二人の技量に差はありません。分かれたのは、決まっていないことの受け取り方でした。
組織で活躍するクリエイターの特徴は、決まっていないことへの構え
組織で活躍するクリエイターとは、専門の確かさに加えて、戦略も方針もまだ決まっていない状態を、ともにつくれる余白として面白がれる人です(GreatRIVER編集部)。
私たちGreatRIVERは、半内部の立場で企業の余白をともにつくる創造性人材に、この構えを「無いことを、面白がる。」という言葉で求めています。戦略も方針も、時には意思さえ、まだ組織に無いことがある。無いということは、共につくれる余白がある、ということです。「面白がるリーダーシップ」という呼び方も、現場のクリエイターとの対話の中で磨いている途中の言葉として持っています。
この構えと専門の確かさを二つの軸に置くと、組織の中のクリエイターの位置が見えやすくなります。

任される範囲が広がりやすいのは右上の位置でしょう。ただ、ほかの位置にもそれぞれの持ち味があります。右下は、指定のはっきりした仕事で確かな力を出す職人の位置で、困った顔をしたあの人は、いまここにいます。左上は技量より先に熱量が立つ人、左下はまだ育ち途中の人です。どの位置へ伸びていくかは、本人の素質だけでなく、どう任されるかで変わります。
スキルが高いのに、組織で伸び悩むクリエイターがいる理由
多くのクリエイターは、決まった仕事で評価されてきました。制作の現場では仕様が先にあり、それを高い精度で形にすることが技量の見せどころです。ところが組織の内側で渡される仕事の多くは、仕様の手前にあります。指定のない仕事が、指定のある仕事の顔をして届きます。
さらに難しいのは、渡し方は「お任せ」なのに、受け止め方が決まった仕事のままであることです。方向が揺れれば修正の回数として数えられ、粗い案は完成度の低さとして見られる。これでは面白がる構えを持つ人ほど損をし、条件がそろうのを待つことが、いちばん安全な選択になっていきます。
伸び悩みは、技量や性格より、余白を渡しながら余白を許さない、この食い違いから生まれることがあるのではないでしょうか。だとすれば、食い違いが解けたとき、右下にいた人が右上へ動くこともありえます。
インハウスデザイナーが活躍する職場の条件は、余白の残し方にある
面白がる構えは、職場の側に三つの条件がそろうと伸びやすくなります。どれも特別な制度は要りません。

一つめは、余白を残して頼むことです。「方向性はお任せで」は、それだけでは余白にも、ただの空白にもなりえます。目的と届けたい相手は決まっている、形と表現は決まっていない。そう分けて添えるだけで、受け取る側はどこに手を入れてよいかが分かります。
二つめは、揺れを責めないことです。方向が変わるのは、組織がまだ決めている途中だからです。揺れたときに、何が変わり、何が変わらなかったかを一緒に確かめれば、揺れは決まりつつあるものを確かめる機会になります。
三つめは、決まったことを一緒に言葉にすることです。クリエイターが一人で言葉にし続けると、頼んだ側は決まったことを人に説明する言葉を持てないままになります。節目ごとに、何が決まり、何がまだかを一緒に短く言葉にしておく。頼んだ側が自分の言葉で「ここまでは決まった」と語りはじめたとき、面白がる人は自分の仕事が組織に届いた手応えを得て、次の余白へ踏み出せます。
活躍するクリエイターを採用で見極めるには
専門の確かさはポートフォリオから読み取れますが、決まっていないことへの構えは読み取りにくい。完成した作品には、決まるまでの揺れがほとんど写らないからです。
手がかりの一つは、面接で、自社がいま実際に抱えている方向の定まらない課題を、そのまま話してみることです。条件を確かめる問いが続くのか、何が変わればうれしいのかを問い返してくるのか。過去に方向が変わった場面を聞き、それを失敗の話として語るのか、何かが決まっていった話として語るのかにも、構えがにじみます。
ただし、見ているのは向き不向きの判定ではなく、いまどの位置にいて、どう任せればどこへ伸びそうかという見立てです。育成も同じで、構えは決まっていない仕事を経験する中で育ちます。クリエイティブの業界には有名な人に仕事が集中しやすい慣習があり、私たちもその外側で育つ機会をつくれないかを考えはじめたところで、まだ着想の段階です。社内のクリエイターについても、小さな範囲から余白のある仕事を任せることが入口になります。

まとめ:人の特徴から、職場の条件へ
組織で活躍するクリエイターの特徴は、決まっていない仕事を、ともにつくれる余白として面白がれる構えにあります。専門の確かさの上にこの構えが重なったとき、任される範囲は広がっていきます。そして、その構えが育つかどうかは、本人の性格より、職場の頼み方と受け止め方に左右されます。
困った顔をしたあの人も、決まっていることと決まっていないことを分けて渡され、揺れても責められない職場にいれば、身を乗り出す側に回ることがあります。次に「方向性はお任せで」と頼むとき、その一言のあとに何を添えるか。面白がる余白は、職場がつくる。
執筆:杉山 諒(株式会社アマナ/プロジェクトデザイナー・GreatRIVER主宰)
企業のブランディングや新規事業開発、人材育成など幅広いプロジェクトに参画し、プランニング・ファシリテーションを中心に企画・設計に従事。クリエイティブ人材育成プログラムamana Creative Camp、創造性人材循環事業GreatRIVERを主宰。認知科学コーチ。
GreatRIVERは、プロジェクトデザイナーをはじめとする創造性人材がチームで参画し、構想と推進の両面から企業のプロジェクトに内側から伴走するサービスです。まずは停滞しているプロジェクトの見立てからで構いません。
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