
経営と現場が分断するのは、両者の言葉を訳す人がいないから
中期計画の説明会で、経営陣が「顧客起点の会社に変わる」と語ります。資料はよくできていて、質疑でも反対意見は出ません。翌週、ある部署の定例会議では、いつもの数字と段取りが確認されて終わります。課長は方針に賛成しています。ただ、来週の仕事の何を変えればいいのかが、まだ分かりません。同じころ、現場の担当者が肌で感じている顧客の変化は、経営会議には問い合わせ件数の推移として一行で届いています。
どちらの側も怠けてはいませんし、対立してもいません。私たちGreatRIVERは、こうした状態を「経営と現場の分断」と呼び、その原因を、両者のあいだで言葉を訳す人がいないことに見ています。経営の言葉は、何を良しとするかを示す抽象の言葉です。現場の言葉は、明日何をするかを決める具体の言葉です。どちらも正しく、どちらも必要です。欠けているのは、その二つを置き換える人です。
経営と現場の分断とは、経営の意図が現場の判断と行動の言葉に置き換わらず、現場の手応えも経営の優先順位の言葉に置き換わらない、双方向の訳し手がいない状態のことです(GreatRIVER編集部)。
分断は、意見の対立でも情報の不足でもない
分断という言葉からは、経営と現場がぶつかっている姿を思い浮かべがちです。けれど多くの組織で起きているのは、静かな分断です。方針に反対する人はいない。説明会も資料もそろっている。それでも、方針が現場の行動に変わらない。
ここで「現場の理解が足りない」と見ると、説明の回数を増やす打ち手になります。「経営が現場を知らない」と見ると、現場視察を増やす打ち手になります。どちらも誠実な対応ですが、量を増やしても、言葉の粒度の違いは埋まりません。抽象の言葉は、何度聞いても抽象のままです。必要なのは、伝える回数ではなく、置き換える作業です。説明が丁寧であるほど伝わったという手応えは残りますが、伝わることと、行動が変わることは別の出来事です。
置き換えは、上から下への一方向だけではありません。現場で起きている小さな手応えや違和感を、経営が判断に使える言葉に置き換えることも、同じだけ欠けています。下りの訳が途切れると方針が止まり、上りの訳が途切れると、経営は現場の変化を数字でしか知ることができなくなります。
あいだにいる管理職が訳しているはずだ、という見方もあります。たしかに管理職は、訳す役を期待されやすい立場です。けれど同時に、自分の部署の成果に責任を持っています。目の前の数字に追われる時期ほど、訳す時間から先に削られていきます。個人の力量の問題ではなく、一人の席に二つの役割が重なっている構造の問題です。

なぜいま、分断が目立つのか
戦略を描くこと自体は、以前より速く、安くできるようになりました。情報を集め、分析し、資料にまとめる仕事は、生成AIが担いはじめています。描かれる戦略が増えるほど、それを現場の行動に変える工程の不足が目立つようになります。
GreatRIVERに寄せられる相談にも、それが表れています。表に出る相談は「デザイナーが足りない」「任せられる外注先を探したい」といった人手の話です。けれど話を重ねると、その下から「戦略を、現場で動くところまで届けたい」という困りごとが出てきます。人が足りないのではなく、訳す役が空いているのです。
外部の専門家に頼んでも、この役は埋まりにくいものです。組織の文脈と制約を知らないまま描かれた提言は、正しいけれど実行できない、という形で終わりやすい。かといって内側の人だけで担おうとすると、所属する部署の論理から離れて言葉を置き換えることが難しくなります。社員だからこそ問いが止まる構造は、内の限界として別に整理しています。
放っておくと、方針が増えるほど言葉が軽くなる
分断が続くと、経営からは現場が動いていないように見えます。そこで新しい方針や重点テーマが足されます。現場からは、また新しい言葉が来たように見えます。前の方針がどう訳されるはずだったのかが分からないまま、次の方針が届くからです。
このやりとりが重なると、方針の言葉そのものが軽くなっていきます。現場は、方針を聞き流しても困らないことを覚えます。経営は、強い言葉を選ぶようになります。どちらにも悪意はありません。訳されない言葉が増えた結果として、組織の言葉の重みが下がっていくのです。
分断のサインは、言葉の行方に出る
分断は、組織図にも業績にも表れません。表れるのは、言葉がどこで途切れたかです。

経営から現場への訳が途切れているときは、戦略資料に書かれた言葉が、現場の会議の議事録に一度も出てきません。同じ方針から、部署ごとにまったく違う施策が出てくるのも、訳し手がいないまま、それぞれの部署が自分の言葉で解釈しているからです。
現場から経営への訳が途切れているときは、報告が数字だけになります。何に手応えがあり、何に違和感があったかという言葉が、会議資料から抜け落ちていきます。現場から質問が出ないことも、納得のしるしではなく、訳されていないことの表れかもしれません。
大企業病や、三つの空席との違い
経営と現場の分断は、大企業病の一部として語られることがあります。大企業病は、組織全体に外の問いが入らなくなった状態を指す言葉です。分断は、組織の内側の、上と下のあいだの言葉の切れ目を指します。社員が数十人の会社でも、経営と現場の言葉は途切れます。
また私たちは、組織に空いている役割を、問いを立てる人、現場で動かす人、知見を残す仕組みの三つで捉えています。分断は、そのうち動かす人の席が空いたときに、最もはっきり出る症状です。三つの空席が構造の名前だとすれば、分断はその構造が会議室で見えるときの姿です。
GreatRIVERの実践:説明を足す前に、訳す席を決める
私たちGreatRIVERは、日々の会議や議論の場に継続的に参加します。そこで注意して見ているのは言葉の行方です。経営会議の資料に書かれた言葉と、現場の定例で使われている言葉を並べ、同じ方針が現場では何と呼ばれているか、あるいは呼ばれていないかを確かめます。現場の報告が経営会議に届くまでに、どの言葉が落ちたかも見ます。
途切れている場所が見えたら、説明を足すより先に、そこに訳す席を置くことを提案します。その席に座る人は、経営の意図を現場が動ける形にし、現場の手応えを経営の言葉で返します。私たちはこの役割を組織の翻訳者と呼んでいます。半内部の創造性人材が担うこともあれば、社内の誰かが担えるように役割を設計することもあります。どちらの場合も、訳す人がいつ経営の場にいて、いつ現場の場にいるのかを、会議体の中に先に組み込みます。善意や兼務に頼ると、忙しい時期から順に訳が途切れるからです。
席を置いたあとは、言葉の行方をもう一度確かめます。数か月たって、戦略資料の言葉が現場の議事録に出てくるようになったか。現場の報告に、数字以外の言葉が戻ってきたか。席を置いたこと自体ではなく、言葉が行き来しはじめたかどうかで、分断が解けつつあるかを判断します。
まとめ:足りないのは説明ではなく、訳す人
経営と現場の分断とは、意見の対立でも情報の不足でもなく、経営の意図と現場の手応えを互いの言葉に置き換える人がいない状態です。説明や視察の量を増やしても、言葉の粒度の違いは埋まりません。
サインは、戦略の言葉が議事録に出てこないこと、報告が数字だけになることに表れます。
次の経営会議の資料を開いたら、そこに書かれたいちばん大事な言葉が、先週の現場の会議で何と呼ばれていたかを思い出してみる。答えが見つからなければ、そのあいだに訳す席が空いています。
執筆:杉山 諒(株式会社アマナ/プロジェクトデザイナー・GreatRIVER主宰)
企業のブランディングや新規事業開発、人材育成など幅広いプロジェクトに参画し、プランニング・ファシリテーションを中心に企画・設計に従事。クリエイティブ人材育成プログラムamana Creative Camp、創造性人材循環事業GreatRIVERを主宰。認知科学コーチ。
GreatRIVERは、プロジェクトデザイナーをはじめとする創造性人材がチームで参画し、構想と推進の両面から企業のプロジェクトに内側から伴走するサービスです。まずは停滞しているプロジェクトの見立てからで構いません。
関連する記事
Download
資料ダウンロード
サービス内容や導入イメージを
まとめた資料をご用意しています。
サービス内容や導入イメージをまとめた資料をご用意しています。
GreatRIVERのサービス概要資料や、課題解決に有効な情報をまとめたホワイトペーパー、事例集などをダウンロードいただけます。サービスの全体像を知りたい際や、社内検討に向けた情報収集にも、ぜひご活用ください。
Download
Contact
お問い合わせ
採用、取材、協業についてお気軽にご連絡ください。
採用、取材、協業について
お気軽にご連絡ください。
GreatRIVERは、「いいクリエイターにアクセスしたい」と考える企業と「企業ともっと深く関わり、並走したい」と考えるクリエイターをつないでいます。クリエイティブ人材を求める企業の方でも、クリエイターとして参画したい方も、まずはお気軽にご連絡ください。クリエイティブファームとの競合や、メディア・団体との連携も歓迎しています。
Join / Ask