
社内ビジネスコンテストに足りないのは、良い案ではなく受賞後の設計
社内報の一面に、受賞したチームの写真が載ります。賞状を手にした四人が並び、その下に審査員の講評が添えられている。半年後、同じ欄には次の回の募集の告知が載ります。説明会の日程と応募の締め切り、そして前回の受賞チームの小さな写真。受賞した案がその後どうなったのかを伝える記事は、あいだの号のどこにもありません。
社内ビジネスコンテスト(社内ビジコン)や社内起業制度の受賞案が事業化せず、失敗に終わるのは、選ばれたあとの設計が薄いからです。受賞案を誰がどの時間で動かすのか、続けるかどうかをどこで判断するのか、分かったことを組織のどこに残すのか。この三つが決まらないまま受賞の日を迎えると、案は担い手の本来業務の合間で、少しずつ細っていきます。
この記事では、制度を運営する事務局の立場から、自社の制度を見立てるための問いを順に置いていきます。制度をやめるためではなく、いまある制度に何を足せばよいかを見つけるための問いです。

社内ビジネスコンテストが事業化しない理由
新規事業提案制度の課題として挙がりやすいのは、応募が年々減る、案が小さくまとまる、といった入口の話です。ただ、応募が集まり、筋のよい案が選ばれても、数年たって事業として残っているものが見当たらない。社内起業制度の形骸化が語られるとき、実際に起きているのはこちらであることも少なくありません。
社内ビジネスコンテストが事業化しないのは、案を選ぶところまでは設計されていても、選ばれたあとに誰がどの時間で動かし、何を組織に残すかが設計されていないからです(GreatRIVER編集部)。
受賞した時点の案は、まだ仮説の束です。顧客に会えば前提が崩れ、試作をすれば想定外の費用が見つかり、別の部署の了解も要ると分かる。そのたびに案を組み直していく時間が、事業化の本体にあたります。審査が見ているのは、その時間に入る前の案の姿です。
選ぶ仕組みは整い、育てる仕組みは空いている
最初の問いは、手元の募集要項で、受賞のあとについて何行書かれているかです。
応募資格、テーマ、審査の観点、日程、賞と副賞。多くの行は案を集めて選ぶためのもので、受賞後は「事業化に向けた検討の機会を設けます」の一行で終わっている、ということもあります。選ぶところまでは、事務局が段取りを整えれば年に一度確実に回せる。その確かさは制度の大きな価値です。説明会で業務の外に目を向ける人が生まれ、審査で案は説明できる言葉に磨かれ、表彰は次に応募する人の背中を押します。

並べてみると、左と右では性質が違います。左の三つは、事務局の持ち物として年に一度の段取りに収まる。右の三つは、受賞の日から数か月、ときに年単位で続き、受賞者の上司、事業部、人事、経営の会議体にまたがるため、空きやすい。表彰が華やかであるほど、その先が用意されているように見え、育てる設計の空白は目立たなくなります。
受賞のあとに要る三つの役割:考える、動かす、残す
二つめの問いは、受賞した案の一つを思い浮かべ、考える人、動かす人、残す仕組みの三つの欄に名前を入れてみることです。新しい取り組みが進まない組織では、このどれかが社内で空いたままになっています。
考える役割は、受賞時の案を押し通すことではなく、問いを立てつづけることです。前提が崩れたとき、何を確かめたかったのかを言い直し、答えが変わることを問いが進んだしるしとして扱う。多くの場合、受賞者自身が担います。
動かす役割は、試作の手配をし、関係部署の協力を取りつけ、顧客との面会の日程を押さえることです。案を考えた人が、そのまま動かすのにも向いているとはかぎりません。
残す役割だけは、人ではなく仕組みです。案がどこまで進み、どの前提が崩れたか。うまく進まなかった案ほど、次の回に役立つことが詰まっています。それが誰かの記憶の中にしかなければ、次の回は同じところでつまずきます。

三つの欄に名前が入るかどうかは、案の出来とは関係がありません。審査票に並ぶのは案そのものを測る項目で、担い手の時間や役割の組み合わせは、たいていどこにも載っていない。コンテストが選んでいるのは案で、事業に要るのは担い手です。
社内起業制度が形骸化するのは、兼務と異動の上に受賞案が置かれるから
三つめの問いは、受賞者の本来業務が、受賞の前と後で何か変わったかです。
受賞者の期初の目標も評価面談の話題も、多くは本来業務のままです。受賞案に充てる時間は、会議の合間や終業の前後に探すことになる。上司は応援していても、部署の数字があり、繁忙期には「今月は本業を優先しよう」という声がかかります。打ち合わせは月に一度から二か月に一度へ、やがて次の予定が決まらないまま間があいていく。誰も怠けていないし、反対もしていない。それでも案は細ります。社内の注目を集めた案だからこそ、進んでいないとは言い出しにくい。
そこに異動が重なります。受賞から一年半ほどで受賞者が別の部署に移ると、なぜその前提を置いたのか、どの顧客の反応で向きを変えたのかは、本人と一緒に移ります。次の回の応募者が似た案を出しても、前の受賞案から何が分かっていたかを知る手立てがありません。
兼務と異動は、経験を広げるための合理的な仕組みです。変えられるのは、その前提の上に受賞案を置くときの設計のほうです。
社内ビジネスコンテストを事業化につなげるには、選ぶ前に役割を設計する
手を入れる場所は、募集の前です。受賞が決まってからでは、上司や事業部との話し合いがすべて後追いになります。募集要項に書かれていれば、応募する人もその上司も、受賞後の働き方を応募の時点で思い浮かべられます。
まず、誰がどの時間で動かすか。受賞者が担うなら、本来業務のどれだけを、何か月のあいだ充てるのかを、本人と上司と事務局が応募の段階で話し合っておく。時間の約束がない受賞案は、繁忙期のたびに後回しになります。
次に、判断する場。審査会は案を選ぶ場で、続けるか、向きを変えるか、閉じるかを話し合う場とは別のものです。受賞から三か月後、半年後に誰が何を見て話し合うのか。閉じることも含めて話し合える場があると、受賞者は進んでいないことを抱え込まずに済みます。
そして、学びを残す先。何が分かったかを誰が書きとめ、次の回の事務局や応募者にどう渡すのか。冒頭の社内報の欄も渡し先になりえます。あいだの号に受賞案のその後を伝える記事が一本あるだけで、次の応募者は前の案がどこで向きを変えたかを知ることができます。
私たちGreatRIVERも、プロジェクトの進め方の最初に「役割をデザインする」ことを置いています。成果から逆算して必要な役割を見極め、誰が担うかはそのあとに考える。この順番だと、社内で持てる役割と外から補ったほうがよい役割を分けて見ることができます。

まとめ:選んだあとの役割を、選ぶ前に置く
社内ビジネスコンテストが事業化しないのは、案の質より、選ぶ設計と育てる設計の厚みが違うからです。受賞案を誰がどの時間で動かし、どこで判断し、何を組織に残すかが空いていると、案は兼務と異動の前提の上で細っていきます。考える、動かす、残す。この三つの役割を、募集の前に設計しておくことが、制度に足せるいちばん大きなものです。
次の回の募集の告知が社内報に載る前、事務局の机の上に、一枚の体制表が置かれています。前の回の受賞案の名前の横に、考える、動かす、残すの三つの欄。一つめの欄には受賞者の名前が入り、残りの二つは、まだ空いたままです。告知の原稿を出す日まで、あと二週間あります。
執筆:杉山 諒(株式会社アマナ/プロジェクトデザイナー・GreatRIVER主宰)
企業のブランディングや新規事業開発、人材育成など幅広いプロジェクトに参画し、プランニング・ファシリテーションを中心に企画・設計に従事。クリエイティブ人材育成プログラムamana Creative Camp、創造性人材循環事業GreatRIVERを主宰。認知科学コーチ。
GreatRIVERは、プロジェクトデザイナーをはじめとする創造性人材がチームで参画し、構想と推進の両面から企業のプロジェクトに内側から伴走するサービスです。まずは停滞しているプロジェクトの見立てからで構いません。
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