評価されるのは、作品か、組織か。「Creative Engine」という考え方

評価されるのは、作品か、組織か。「Creative Engine」という考え方

写真:暗闇に浮かぶ時計の文字盤(Photo: Ondrej Polak / Unsplash)

「代表作」の一覧に、載らないもの

企業の創造性は長いあいだ、広告賞を受けた作品や話題を呼んだキャンペーンで測られてきた。目に見えて、比べやすく、語りやすい。その測り方は、いまも間違っていない。作品が人の心を動かさなければ、何も始まらないからだ。

ただ、作品は何かが噛み合った結果として現れる。そのブランドは市場のどこに立つのか。顧客にどんな体験を手渡すのか。誰と誰がどう組み、どんな人が育ち、どんな手順で仕事が進み、どんな技術を使いこなしているのか。一覧に載るのは結果のほうで、こうした手前のものは載らない。

GreatRIVERは、優れた広告やキャンペーンのような「つくったもの(Creative Output)」に対して、ブランドのポジショニング、顧客体験の設計、協働の仕組み、人材と組織文化、オペレーションとプロセス、テクノロジーとイノベーションの六つが噛み合い、新しいものを生み出しつづける組織の力を「Creative Engine」と呼ぶ。

図:上に、入れ替わっていく作品の点が並ぶ。その奥で、ブランドのポジショニング、顧客体験の設計、協働の仕組み、人材と組織文化、オペレーションとプロセス、テクノロジーとイノベーションの六つの円が互いに接して噛み合い、Creative Engine として回っている(GreatRIVER作成)

作品は、一つの点だ。その奥で、六つの部品が噛み合って回っている。点は年ごとに入れ替わっても、回る仕組みが残っていれば、次の点がまた現れる。仕組みが止まった組織では、一つの代表作は、二度とつくれない記念碑になっていく。

「速く、安く」の先で、何が差になるのか

より速く、より安く、より正確に、より大量に。効率を高めることが、そのまま企業の強さだった時代は長い。いま、クラウドやSaaS、生成AIによって、その力は誰でも手に入るものになった。情報を集め、分析し、資料をつくる仕事は、AIがより速く安く担う。

そうなると、一つの優れた作品も、以前より早く追いつかれる。見た目や手法は写せるからだ。写せないのは、その作品を生んだ組織の噛み合い方のほうである。問われる単位が、作品から、作品を生む仕組みへ移りはじめている。何を測り、何に投資するかも、そこで変わるはずだ。

部品の「出来」より、部品の「噛み合わせ」

ただ、ここで立ち止まって考えたいことがある。六つの要素をそれぞれ整えれば、Creative Engineは回りだすのだろうか。

ブランドの指針を見直し、体験を設計し直し、制度をつくり、育成を重ね、手順を整え、新しい道具を入れる。どれも欠かせない仕事だ。けれど部品が一つずつ立派でも、噛み合っていなければ仕組みは回らない。ブランドの位置づけが、日々の判断の手順に届いていない。新しい道具が、協働の仕方を変えていない。そうした継ぎ目で、力は空回りする。Creative Engineが見ているのは、部品の出来栄えより、部品どうしの噛み合わせだ。

組織能力やケイパビリティという言葉も、企業が持つ力を指す。ただ多くの場合、それは何ができるかという能力の目録として語られる。Creative Engineが問うのは、新しいものを生み出しつづけるという一点に向けて、要素が噛み合って回っているかどうかである。GreatRIVERが澱まない組織と呼ぶものが組織の在り方なら、Creative Engineは、企業が何を評価し、何に投資するかという対象の言い換えだと言える。

戦略と制作の、継ぎ目に入る

GreatRIVERは、創造性人材を企業の内側に迎え入れてもらい、日々の会議や意思決定の場にチームの一員として加わる伴走を続けている。目指すのは、良いアウトプットをつくることだけでなく、良いアウトプットを生み出せる組織そのものをつくることだ。その考え方は、Creative Advantage Modelという理論にまとめている。

2026年9月時点で登録する94名のうち、戦略と制作の両方を担える人は79名いる。戦略だけ、制作だけでは、部品の一つにしか触れられない。両方を行き来できるから、ブランドの位置づけを、現場の手順や体験の細部まで運べる。そしてプロジェクトの間ずっと、何を学び、なぜ決め、なぜ捨てたかを記録する。噛み合わせの理由が組織の暗黙知として残れば、人が入れ替わっても仕組みは止まりにくい。

写真:暗がりで噛み合う歯車(Photo: Wilhelm Gunkel / Unsplash)

一つの作品の奥に、何が回っていたか

Creative Engineとは、ブランドのポジショニングからテクノロジーまでの六つが噛み合い、新しいものを生み出しつづける組織の力だ。作品は、その力が外に現れた一つの姿である。作品の価値が下がるのではなく、作品を見る目の奥行きが変わる。

今年の代表作を一つ選び、それが生まれるまでに六つのうちどれが効いていたかを書き出してみる。書けない部品があれば、次の代表作はそこで止まるのかもしれない。

執筆:杉山 諒(株式会社アマナ/プロジェクトデザイナー・GreatRIVER主宰)

企業のブランディングや新規事業開発、人材育成など幅広いプロジェクトに参画し、プランニング・ファシリテーションを中心に企画・設計に従事。クリエイティブ人材育成プログラムamana Creative Camp、創造性人材循環事業GreatRIVERを主宰。認知科学コーチ。

GreatRIVERは、プロジェクトデザイナーをはじめとする創造性人材がチームで参画し、構想と推進の両面から企業のプロジェクトに内側から伴走するサービスです。まずは停滞しているプロジェクトの見立てからで構いません。