トレンドの先ではなく、人の欲求と未来の矛盾へ。新規事業の探索を捉え直す

トレンドの先ではなく、人の欲求と未来の矛盾へ。新規事業の探索を捉え直す

「同じ資料を読めば、どの会社でも同じ結論になるのではないか」

新規事業の検討会。分厚いトレンド資料が配られ、人口構造の変化、脱炭素、生成AIの普及が並ぶ。いくつかの未来シナリオを描き、どのシナリオでも伸びそうな領域に印をつけていくと、結論は「AIを活用した新しいサービス」に落ち着いた。筋は通っていて、誰も反対しない。それでも会議室を出るとき、冒頭の思いが、誰の頭にも少しずつ残っている。

予測は、誰にでも手に入る。では、トレンド資料のその先で、探索に何ができるのか。

写真:暗い地平に細く残る光(Photo: Stijn te Strake / Unsplash)

「正しい結論」が、差にならないとき

メガトレンド分析やシナリオプランニングは、役に立つ道具だ。議論の前提をそろえ、見落としを減らし、極端な楽観を戒めてくれる。気になるのは、探索の最後までこの道具だけで進めてしまうことである。

大きな変化は、その性質上、誰にでも見えている。同じ統計と同じ予測を材料にすれば、どの会社も似た地図を描く。「AIが普及する」という結論は正しい。ただ、正しいからこそ、他社との差にはなりにくい。

市場が成熟し、多くの人が共通に抱えていた問題は、ほとんど解かれてきた。残っているのは、解いても採算が合わない問題か、まだ誰も問題だと気づいていない問題だろう。探索が向かうのは、後者である。

GreatRIVERは、未来の予測から有望な領域を選ぶことではなく、人の欲求とこれから訪れる環境の変化とのあいだにある矛盾を見つけ、そこから事業の問いを立てる営みを、「新規事業の探索」と呼ぶ。

「欲求」と「未来」が、ぶつかる場所

新しい問題は、人と、人を取り巻く環境のずれから生まれる。GreatRIVERはそう見ている。技術や働き方、家族の形、都市は変わりつづける。人の欲求も変わるが、同じ速さでは変わらない。その速さの違いが、ずれになり、矛盾になる。

図:速く変わる未来の変化と、ゆっくり変わる人の欲求。二本の線のあいだに開いた隙間に、事業の問いが立つ(GreatRIVER作成)

たとえば、一人で完結できる仕事が増えていく未来と、誰かと同じ場にいたいという欲求。予測だけを見れば前者の延長に事業を置き、欲求だけを見れば後者を昔ながらの形で満たそうとする。探索が始まるのは、二つがぶつかる場所に立ったときだ。一人で働く時間が増えるほど、人は何のために集まるのか。そんな問いは、トレンド資料からも、アンケートからも出てきにくい。

ここで言う欲求は、ニーズとは少し違う。ニーズは、人がいま言葉にできる要望。欲求は、身体や感情の側にあり、本人もうまく言葉にしていないものだ。だから探索では、話を聞くだけでなく、人がどこで迷い、何を手放せずにいるかを見ていく。

矛盾を、ほどかずに置いておく

ただ、ここで立ち止まって考えたいことがある。矛盾が見えたなら、早く角を取って、全員が納得できる案にまとめるのが良い進め方なのだろうか。

合意へ着地させることを急ぐと、矛盾はきれいに消えていきやすい。ぶつかっている二つを、ぶつかったまま机の上に置いておく時間が、探索には要る。どこで誰が決めるのかを先に描いておけば、結論を急がなくても議論は散らかりにくい。その下ごしらえは、プロジェクトデザイナーの仕事でもある。

市場調査は、すでに名前のついた市場の大きさと伸びを測る。アイデア出しは、答えの数を増やす。どちらも欠かせないが、探索で先に変えたいのは問いの立て方だ。創造性の四つの働きでいえば、問題を発見する働きが、その中心にある。

異質な人と、「そもそも何を解くのか」

GreatRIVERは、新規事業の領域で、未来の探索からコンセプトメイキング、リサーチ、マイルストーンの設計、推進までを、企業の内側で一緒に担っている。標準の体制は、戦略リードと推進リードの組み合わせだ。

探索の場に持ち込むのは、異質な視点である。新しい解決策は、同じ業界の外にある知から生まれることが多い。GreatRIVERに登録している創造性人材は94名で、そのうち82名が六つの領域のうち三つ以上をまたいで仕事をしている(2026年9月時点)。業界の常識に慣れていない人がいると、社内では問われない前提に、問いが向きはじめる。

テーマが与えられていても、「そもそも何を解くのか」から立て直す。テーマを否定するためではなく、その奥にある矛盾にたどり着くためだ。矛盾が見えたら、言葉や絵、簡単な試作に起こし、現実の反応で確かめる。

写真:地平の上に広がりはじめる明るさ(Photo: Elliott Engelmann / Unsplash)

資料の、どのページにもない一行

新規事業の探索とは、未来の予測から領域を選ぶことではなく、人の欲求と環境の変化のあいだにある矛盾から、事業の問いを立てることだ。トレンドは前提をそろえる道具として生かし、その先で人を見る。

次の検討会でトレンド資料が配られたら、どのページにも載っていない一行を探してみてはどうだろう。人が手放せずにいるものと、未来が手放させようとしているもの。その二つが離れていく場所に、まだ誰も立てていない問いがあるのかもしれない。

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執筆:杉山 諒(株式会社アマナ/プロジェクトデザイナー・GreatRIVER主宰)

企業のブランディングや新規事業開発、人材育成など幅広いプロジェクトに参画し、プランニング・ファシリテーションを中心に企画・設計に従事。クリエイティブ人材育成プログラムamana Creative Camp、創造性人材循環事業GreatRIVERを主宰。認知科学コーチ。

GreatRIVERは、プロジェクトデザイナーをはじめとする創造性人材がチームで参画し、構想と推進の両面から企業のプロジェクトに内側から伴走するサービスです。まずは停滞しているプロジェクトの見立てからで構いません。