「人が足りない」の奥にあるもの。組織に空きやすい「三つの席」

「人が足りない」の奥にあるもの。組織に空きやすい「三つの席」

「とにかく、人が足りないんです」

来期の人員計画の会議に、各部署から増員の要望が並ぶ。どれにも「人手不足」と書かれている。ところが、その一人に何を任せたいのかを尋ねると、答えは部署ごとにずれていく。新しい企画を考えてほしい。部署をまたいで話をまとめてほしい。担当が異動しても回るようにしてほしい。

同じ「人が足りない」の下に、別々の不在が隠れているのではないか。人数の言葉の奥で、いったい何が空いているのか。

写真:何も置かれていない白い部屋(Photo: Lisa Anna / Unsplash)

「人が足りない」という入口

「人手不足」は、決裁の場でいちばん通りやすい言葉かもしれない。人数は数えられ、予算にも採用計画にも置き換えやすい。だから役割の不在も、まず人数の言葉で語られる。入口の言葉としては正直で、使いやすい。気をつけたいのは、その言葉のまま答えまで決めてしまうことだ。

GreatRIVERに届く相談は、三つの層で見えてくる。いちばん上に、「デザイナーが足りない」「採用でとれない」という相談がある。その下に、課題の整理から一緒にやってほしい、戦略を現場まで届けたい、社内にナレッジを残したい、という困りごとがある。さらに奥に、役割が空いたままになっている構造がある。

GreatRIVERは、問いを立てる人、現場で動かす人、知見を残す仕組みという、組織の中で空きやすい三つの役割を「三つの席」と呼ぶ。この席が空いたままだと、「考える・動かす・残す」が止まる。

図:並んだ席の多くは埋まっているが、問いを立てる人、現場で動かす人、知見を残す仕組みの三つの席だけが空いている(GreatRIVER作成)

三つの席、それぞれの空き方

三つの席は、職種の名前ではない。見ているのは、誰がその仕事をしているかより、その仕事がいま組織の中で行われているかどうかだ。

問いを立てる席が空くと、与えられた課題を解く人はいても、「そもそも何を解くべきか」を言い出す人がいない。新しい企画が、前年の延長か、よその事例の言い換えになっていく。問いと座組みを描く役割は「プロジェクトデザイナー」に書いた。

現場で動かす席が空くと、方針も承認もあるのに物事が動かない。方針を部署ごとの言葉に訳し、決めるべきことを決める場をつくる人がいないからだ。管理職が調整に追われているとき、この席は空いていることが多い。良い計画ほど、現場の手前で止まる。

知見を残す席に座るのは、人より仕組みである。ここが空くと、プロジェクトが終わっても学びが残らず、担当が替わるたびに同じ議論がやり直される。残すべき判断の過程は「組織の暗黙知」として別に書いた。

組織図に、置き場所のない三つ

すでにある問いに答える仕事は、道具の進歩で速く安くなっていく。そのぶん、補いにくい仕事が目立ちはじめた。人手不足という言葉は昔から同じでも、足りないものの中身は変わってきている。

しかも三つの席は、評価や組織図の上に置き場所を持ちにくい。問いを立てる仕事は成果が出るまで時間がかかり、ときに誰かの立場に触れる。動かす仕事は部署と部署のあいだにあり、どこの所管でもない。残す仕事には、いま急ぐ理由がない。多くの組織では本来業務と掛け持ちで担い、異動で担い手も替わる。

三つは、つながっている。問いがなければ動かす対象がなく、動かす人がいなければ、問いは議事録の中で終わる。残す仕組みがなければ、次の問いはまた同じところから始まる。

「人数」ではなく、「席」から

ただ、ここで立ち止まって考えたいことがある。人を増やせば、空いた席は埋まるのだろうか。

採用は、能力を組織に残すいちばん確かな手段だ。ただ、どの席が空いているかが見えないまま採用すると、求人票は職種の名前で書かれ、入った人はすでにある仕事に吸い込まれていくかもしれない。外に作業を頼めば手は増えるが、問う席と残す仕組みは社内に戻りにくい。手段の良し悪しではなく、どの席に向けた手段なのかが問われている。

GreatRIVERは、相談がどの層から始まっても受け止め、まず空いている席を企業と一緒に見定める。進め方の最初に「役割をデザインする」を置き、成果から逆算して、役割ごとに人を選ぶ。中心となる関わり方では、戦略をリードする人と推進をリードする人が企業の内側に入り、役割・判断基準・会議体をつくりながらプロジェクトを動かす。判断の記録は、プロジェクトの間ずっと残していく。席の形が見えれば、社員が座る席もあれば、半内部人材が座る席もある。

写真:光の差す場所に置かれた一脚の椅子(Photo: Ellen Qin / Unsplash)

どの席が、空いているか

三つの席とは、問いを立てる人、現場で動かす人、知見を残す仕組みという、組織の中で空きやすい三つの役割だ。「人が足りない」という言葉は、多くの場合、この席の空きを人数で言い表したものなのかもしれない。

来期の増員要望に目を通すとき、それぞれの横に「問う」「動かす」「残す」のどれにあたるかを書き添えてみる。どれにも当てはまらない要望と、誰も要望していない席が、同時に見えてくるはずだ。

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執筆:杉山 諒(株式会社アマナ/プロジェクトデザイナー・GreatRIVER主宰)

企業のブランディングや新規事業開発、人材育成など幅広いプロジェクトに参画し、プランニング・ファシリテーションを中心に企画・設計に従事。クリエイティブ人材育成プログラムamana Creative Camp、創造性人材循環事業GreatRIVERを主宰。認知科学コーチ。

GreatRIVERは、プロジェクトデザイナーをはじめとする創造性人材がチームで参画し、構想と推進の両面から企業のプロジェクトに内側から伴走するサービスです。まずは停滞しているプロジェクトの見立てからで構いません。